非上場株式の相続で失敗しないための完全ガイド

非上場株式の相続の基本
非上場株式とは、証券取引所に上場されていない企業の株式のことを指します。これらの株式は、一般に公開市場での取引が行われず、限られた範囲内での売買が特徴です。非上場株式には、以下のような特徴があります。
取引の非公開性
非上場株式は、証券取引所を介さずに取引されるため、価格や取引量が一般に公開されません。このため、市場価値を判断することが困難で、売買する際には価格について個別に交渉する必要があります。評価する際には、企業の財務状況、業績、将来性といった多様な要素を総合的に考慮する必要があり、その過程は複雑です。
流動性の低さ
非上場株式は、一般的に流動性が低いとされています。これは、取引が限られた範囲内でしか行われないため、売りたいときにすぐに買い手を見つけることが難しい場合があります。
手続きの複雑さ
非上場株式の売買には、契約書の作成や株式譲渡の登記など、複雑な手続きが伴います。また、会社の定款で株式の譲渡に関する制限が設けられている場合もあります。
税金対策としての利用
非上場株式は、相続や贈与の際に、その評価額に基づく税金が課されます。適切な評価と税金対策は、非上場株式を持つ個人や家族にとって重要な課題です。
相続の対象
被相続人が死亡した際、その人が保有していた非上場株式は相続人によって相続されます。相続人は個人でも法人でも構いません。また最初に、遺言が存在するかを確認する必要があります。遺言は自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
・自筆証書遺言…遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自分の手で書き、署名または押印することによって作成される遺言のことです。
・公正証書遺言…遺言者が公証人と証人二人の前で遺言の内容を口述し、公証人がその内容を文書に記載し、その文書に基づいて遺言が作成される遺言の形式です。この場合、遺言が作成された公証人役場で遺言書の登録がされているはずですので公証人役場に問い合わせることで遺言の存在を確認できます。
・秘密証書遺言…遺言者が遺言内容を他人に知られずに作成できる形式です。遺言者は遺言を自筆または代筆で書き、封筒に入れて秘密に保ちます。次に、証人2人以上の前で、その封筒の文書が自己の遺言であることと封筒の封印を宣言します。最後に、遺言者と証人が封筒に署名または押印をし、遺言作成の手続きを完了します。
遺言の内容が不明瞭または解釈が複数ある場合は、相続人間で意見の対立が生じることもあり、これらの紛争を円滑に解決するためのアドバイスや、仲裁・調停の手続きについて専門家の助言を得ることが望ましいです。
相続税の計算方法
評価の基本
非上場株式の相続税評価は、財産評価基本通達に基づく計算方法で行われます。これには、財務諸表に基づく評価、類似業種比準価格法、純資産価格法などがあります。
1.不動産
不動産の価値は、公示価格や固定資産税評価額を基に計算されます。市場価値に近似するための補正が加えられることもあります。
2.預貯金・債券
預貯金や国債、社債などは、額面通りまたは残高をそのまま評価額とします。
3.株式
《上場株式》・・・評価基準日における市場価格(平均的な取引価格)に基づいて評価されます。
《非上場株式》・・・財務状況や収益力を考慮し、純資産価値や収益還元価値によって評価します。
4.車両、美術品、宝石等
市場での取引価格や専門家による鑑定評価を基に決定されます。
課税価値の計算
相続税の課税価値は、被相続人が保有していた非上場株式の評価額に基づいて計算されます。この評価額は、相続発生時点の財務状況や市場環境を反映したものでなければなりません。
評価の基本原則
非上場株式の評価には、主に「純資産価格法」と「収益還元法」が用いられます。これらの方法は、相続税法において定められており、相続発生時の企業価値を算出するための基準を提供します。
《純資産価格法》…会社の財務諸表に基づき、純資産(総資産から総負債を差し引いたもの)を株式の総数で割って、1株当たりの価値を算出します。
《収益還元法》…将来にわたって得られると予想される収益を現在価値に割り引いて評価する方法です。収益力を反映した評価が可能です。
評価額の計算手順
ステップ1: 財務状況の分析
まず、最新の財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)を分析して、企業の財務状況を確認します。
ステップ2: 評価方法の選定
企業の特性や業績、市場の状況に応じて、純資産価格法または収益還元法を選定します。場合によっては、両方の方法を組み合わせて用いることもあります。
ステップ3: 1株当たりの評価額の算出
選定した評価方法に基づき、1株当たりの評価額を算出します。この際、非上場であることの影響を考慮した調整を行うことがあります。
課税価値への反映
算出された1株当たりの評価額に、被相続人が保有していた株式の総数を乗じることで、非上場株式の課税価値が計算されます。この課税価値は、相続税の申告において重要な数字となり、最終的な相続税額の計算基礎として用いられます。
評価減の適用条件
小規模企業等の評価減
特定の条件を満たす小規模企業の非上場株式は、評価額の減額が認められる場合があります。これには、事業の継続性、雇用の維持などが評価されます。
適用条件
評価減を適用するためには、相続税法に定められた条件を満たす必要があります。これには、被相続人の保有比率、経営参画の実態、事業の継続性などが含まれます。
適切な手続きのステップ
相続が発生したら、相続税の申告が必要です。これには、遺産分割協議、株式の評価、相続税の計算、申告書の提出などが含まれます。
【非上場株式を相続した際の税金対策】
生前贈与の活用、信託の利用、小規模企業共済への加入が有効です。これらの対策を適切に組み合わせ、相続税の負担を大幅に軽減することが可能です。
生前贈与の活用
生前贈与は、資産の所有者が生きているうちに、相続人へ財産を渡すことを指します。相続が始まる前に、非上場株式をはじめとする資産を先に贈与しておくことで、相続税の計算基礎になる額を減らすことが可能です。日本では、年間110万円までの贈与に対して税金がかからない「小規模贈与の非課税枠」という制度があります(ただし、この金額は将来変わることがあるため、最新の情報を確認することが重要です)。この範囲で贈与を行えば、贈与税無しで財産を移すことができます。
信託の活用
信託とは、資産の所有者(設定者)が、信託銀行や信託会社(受託者)に資産を託し、特定の目的のためにそれを管理・運用してもらう仕組みです。非上場株式を信託に託すことにより、相続時に一度に大量の資産が移転することを避け、相続税の負担を分散・軽減することができます。また、特定の条件下で信託財産が評価減される場合もあります。
小規模企業共済の利用
小規模企業共済は、中小企業の経営者が加入できる退職金制度です。この制度を利用すると、支払った掛け金が経費として認められるため、所得税や法人税を減らすことができます。さらに、将来共済金を受け取る際にも、特定の額までは税金がかからない非課税枠が設定されており、相続税の軽減にも役立ちます。
株主名簿の書き換えを行う際のステップ
非上場会社の株式を相続した場合、相続人が正式な株主として認められるためには、株主名簿の書き換えが必要になります。株主名簿の書き換え手続きは、以下のステップで進められます。
相続の開始を証明する書類の準備
株式名義書換請求書
死亡診断書または戸籍謄本(死亡の事実を証明するため)
遺言書がある場合はそのコピー(遺言の内容に従って手続きを行うため)
相続人全員の戸籍謄本と印鑑(相続人の範囲を証明するため)
遺産分割協議書(相続人同士で相続財産の分割について正式に同意し記録した文書)
相続関係説明図(相続人の関係を分かりやすく示した図)
株券(発行されている場合)
相続税の申告
非上場会社の株式を相続する場合、相続税の申告が必要になることがあります。相続税が関係する場合は、税務署への申告後、相続税の納税証明書を取得します。
株式会社への通知
相続の事実と相続人が株式を相続したことを非上場会社に通知します。この際、上記の書類を会社に提出し、株主名簿の書き換えを請求します。
株主名簿管理人への手続き
非上場会社が株主名簿管理人を設置している場合は、その管理人に対しても書き換えの請求を行います。株主名簿管理人は、提出された書類を基に株主名簿の書き換えを行います。
書き換えの実施
必要書類が揃い、会社が株式の相続を認めると、株主名簿の書き換えが行われます。これにより、相続人は正式な株主としての地位を得ることができます。
株主名簿の書き換え手続きは、非上場会社の株式の相続において重要なプロセスです。手続きをスムーズに進めるためには、必要書類を正確に準備し、会社や株主名簿管理人と適切にコミュニケーションを取ることが大切です。不明点がある場合は、会社や法律の専門家に相談することをお勧めします。
よくあるお悩みQ&A
Q.亡くなった経営者が非上場会社オーナーだったのですが、死亡退職金が発生するのでしょうか?
その非上場会社の定款や就業規則、退職金規程などによって異なります。多くの企業では、役員や経営者に対しても退職金制度を設けている場合がありますが、経営者自身が死亡した場合に退職金が支払われるかどうかは、その制度の内容や契約の条項によります。
一般的に、退職金制度の目的は、長年の勤務に対する報酬や将来の生活保障のために提供されるものです。そのため、経営者が亡くなった場合にも、その経営者が生前に設定した退職金規程や契約に基づいて、遺族への死亡退職金の支払いが行われることがあります。ただし、具体的な支払い条件や金額は、事前に定められた規程や契約の詳細に依存します。
死亡退職金の支給条件や金額、手続きについては、会社の規程や経営者との間で取り交わされた契約書を確認することが重要です。また、非上場会社の場合、会社の経済状態や資金状況も死亡退職金の支払い能力に影響を与えるため、具体的な状況を踏まえた上での検討が必要となるでしょう。遺族が死亡退職金について疑問や不明点を持つ場合は、法律の専門家や税理士に相談することをお勧めします。
Q.会社の財産と、個人の財産を区別していませんでした。どうすればいいでしょうか?
相続手続きが複雑になる可能性があります。法律や税務の専門家に早めに相談し、適切なアドバイスを受けながら進めていくことが重要です。適切に対処するために以下のステップを踏むことが重要です。
- 専門家に相談する
まずは、法律の専門家(弁護士)、税理士、会計士などに相談し、状況を共有してください。これらの専門家は、法的な観点や税務の観点から適切なアドバイスを提供し、相続手続きのサポートをしてくれます。
- 財産の洗い出し
会社の財産と個人の財産を明確に区別するためには、まず両者の財産を洗い出す必要があります。これには、銀行口座、不動産、株式、その他の資産に関する書類や記録の確認が含まれます。
- 財産の評価
財産を洗い出した後、それぞれの財産についての評価を行います。非上場会社の株式や不動産など、市場価値が明確でない資産については、専門家の評価が必要となる場合があります。
- 法的な手続きの実施
会社と個人の財産を区別した上で、相続法に基づく手続きを進めます。これには、遺産分割協議の実施や相続税の申告が含まれます。特に非上場会社の株式を相続する場合には、相続人間での合意形成や会社側の手続きも必要になります。
- 相続税の申告と支払い
財産の評価が終わった後、相続税の申告を行い、必要に応じて税金を支払います。非上場会社の株式など、特定の資産には特別な評価基準や税制優遇措置が適用される場合がありますので、専門家の助言を仰ぐことが重要です。