株式を所有者の死亡後も放置するとどうなる?発覚時の対処法は?

相続手続きを済ませてしばらく経った後に、相続財産に株式があることが発覚したときの対処方法がわからず、困っている方もいるのではないでしょうか。所有者の死亡後も株式を放置するとさまざまなデメリットが生じるため、適切に対処する必要があります。
本記事では、所有者が亡くなった後に株式を放置し続けた場合のデメリットと対処法について解説します。株式を放置してしまうと損失を被る可能性があるので、ぜひ参考にしてください。
株式を所有者の死亡後も放置する5つのデメリット

所有者の死亡後も株式を放置するデメリットは、以下の5つです。
- 相続遺産の申告漏れとして追徴課税される可能性がある
- 受取期限切れで亡くなった人の配当金を受け取れなくなる
- 株式の名義変更のため再び遺産分割協議が必要となる
- 株式を競売などによって売却される可能性がある
- 証券口座が凍結される可能性がある
順番に解説します。
1. 相続遺産の申告漏れとして追徴課税される可能性がある
株式の所有者が死亡した後もずっと放置していると、申告漏れとして追徴課税の対象となる可能性があります。追徴課税の内容は、以下のとおりです。
- 無申告加算税
⇒納付すべき税額に対して15〜20%加算される税 - 延滞税
⇒納付期限から納付までの期間に応じて、納付すべき税額に対して年2.4〜8.7%に相当する税
相続税の納税義務は、原則として申告期限から5年で時効となります。ただし、意図的に申告逃れをしようとしていた場合は時効が7年に延長される点には、注意が必要です。
しかし実際には、税務署による調査や指摘により、時効成立前に追徴課税されることが一般的です。
2. 受取期限切れで亡くなった人の配当金を受け取れなくなる
株式の所有者が死亡した後も放置すると、配当金を受け取れなくなる可能性があります。
配当金とは、株式を保有する株主に対して企業が支払う利益を分配したお金のことです。株主が亡くなった後、一定期間内に名義変更の手続きを行わないと、本来受け取れるはずの配当金を受け取れなくなります。
多くの企業では、配当金の受取期限を定款で定めています。例えば、東京証券取引所の上場会社の多くは定款で定めている配当金の受取期限は、配当支払開始日から3〜5年程度です。
配当金は、株式投資の大切な利益の一つです。とくに、高配当利回りの株式で配当金を受け取れないと、大きな損失につながる可能性があります。
3. 株式の名義変更のため再び遺産分割協議が必要となる
所有者の死亡後も株式を放置すると、株式の名義変更のために再び遺産分割協議をおこなわなければなりません。遺産分割協議とは、相続人全員で話し合い、被相続人の財産の分配について決める手続きのことです。
株式の名義変更を行うためには、以下の書類を提出する必要があります。
- 株式名義書換請求書
- 取引口座引継ぎの念書
- 株券
- 戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人全員の同意書
- 遺産分割協議書 など
相続後に株式が出てきた場合、たとえ遺産分割協議を完了した後だとしても、再度実施しなければなりません。
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要であり、時間と手間がかかる手続きです。とくに、相続人の間で意見が対立している場合、合意形成が難しくなるでしょう。
4. 株式を競売などによって売却される可能性がある
所有者の死亡後も株式を放置してしまうと、競売などによって売却されてしまうこともあります。これは「株主所在不明」という状態が長期間続いた場合に起こりうる問題です。
会社法上では、株主所在不明の状態が5年以上に渡ると、会社は株式を競売や公開買付けによって売却できるようになります。競売で売却された株式の代金は、一定期間が経過した後に国庫へ帰属します。
会社側が株式を競売や公開買い付けにより売却をしてしまうと、元の保有者は売却金を受け取れなくなるので、事前に対処すべき問題です。
5.証券口座が凍結される可能性がある
株式の放置期間が長期にわたると、証券口座が凍結されてしまう可能性があります。
口座が凍結されると、相続人であっても相続手続きが完了するまでは、その口座での取引や資金の引き出しができなくなります。株式の換金や配当金の受取もできません。
また、証券口座の場合は名義変更ができません。そのため、証券口座が凍結されてしまった際は、株式を移すために相続人名義で新たに口座を開設する必要があります。
放置を防ぐために相続遺産に株式がないか確認する方法

株式が相続遺産にあることを知らずに放置してしまうと、さまざまなデメリットが起こる可能性があります。一方で、被相続人が株式を保有しているかわからないという人も多いでしょう。
相続遺産に株式がないか確認する方法は、株式の上場の有無によって異なります。
上場株式の場合は証券会社に問い合わせる
上場株式の場合は、証券会社に問い合わせることで被相続人の株式保有状況を把握できます。
証券会社への問い合わせ手順は、以下のとおりです。
- 被相続人の自宅に届いている「取引残高報告書」や「特定口座年間取引報告書」などの書類を確認する
- 被相続人が取引していた証券会社が判明したら、その証券会社に連絡し、被相続人名義の口座の有無と残高を確認する
被相続人が取引していた証券会社を特定できない場合は、証券保管振替機構(ほふり)に情報開示請求を行いましょう。
非上場株式の場合は発行会社に問い合わせる
非上場株式の場合は、被相続人の株式保有状況について、発行会社に直接問い合わせる必要があります。非上場株式を保有している事例で多いのが、被相続人が生前に自身で会社を経営していたり、兄弟・親族が経営する会社に出資していたりした場合です。
被相続人が非上場株式を保有していた可能性がある場合は、次の手順で確認を進めましょう。
- 被相続人が経営していた会社や、被相続人の親族が経営する会社の有無を確認する
- 該当する会社があれば、その会社に連絡し、被相続人名義の株式の有無と保有株式数を確認する
- 必要に応じて、他の関連会社についても同様の確認を行う
所有者死亡後に株式の放置に気づいたときの対処法

被相続人が死亡し相続を済ませたしばらく後になって、初めて株式の存在に気づくケースは少なくありません。ここからは、株式の存在に気づいた後に取るべき対処法を見ていきましょう。
ここでの対処法も、株式の上場の有無によって変わってきます。
上場株式は遺産分割協議や調停などで相続人を決める
上場株式の場合は、まず株式の相続人を決める必要があります。相続人を決める際の手順は、以下のとおりです。
- 被相続人の遺言書の有無を確認する
- 遺言書がない場合は、遺産分割協議によって株式の相続人を決める
- 遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てる
遺言書があれば、原則としてその内容に従って相続が行われます。遺言書がない場合は遺産分割協議を行い、株式の相続人を決めます。
遺産分割協議の結果は遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名および押印をしなければなりません。
一方で、遺産分割協議がまとまらない場合は家庭裁判所に調停や審判を申し立てることで、代わりに株式の相続人を決定してもらえます。
非上場株式は発行会社に直接相続の旨を連絡する
非上場株式の場合は株式の発行会社へ直接連絡し、相続の意思を伝える必要があります。非上場株式を相続する際は、以下の手順を踏むのが一般的です。
- 株式を発行している会社に連絡し、株主の死亡と相続の意思を伝える
- 会社から指定された必要書類を提出する(戸籍謄本、遺産分割協議書など)
- 会社の定款や株主間契約に基づいて相続手続きを進める
基本的には、発行会社のルールを確認しながら相続手続きを進めていくことになります。
非上場株式の相続には、上場株式とは異なるルールが適用される場合があります。例えば、株式の譲渡を制限する定款の規定や、株主間の契約などです。
所有者死亡後に放置されていた株式の名義変更の手順

所有者の死亡後も放置されていた株式の名義変更は、以下の3STEPに沿って行います。
- 金融機関に残高証明書を発行してもらう
- 株式の遺産分割協議を行う
- 金融機関に必要書類を提出する
順番に見ていきましょう。
1. 金融機関に残高証明書を発行してもらう
株式の名義変更を行う際は、まず金融機関から残高証明書を発行してもらいましょう。
残高証明書とは、株式の保有状況を証明する書類のことです。株式の名義変更の際は、被相続人の死亡時点で保有している株式の銘柄と数量を確認しなければなりません。
残高証明書があれば株式の名義変更に必要な情報が掲載されているため、必要となります。
2. 株式の遺産分割協議を行う
以下の手順に沿って、遺産分割協議を行います。
- 相続人全員で話し合う場を設ける
- 残高証明書などで被相続人が保有していた株式の内容を確認する
- 株式の分割方法について協議し、合意を得る
- 合意内容を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名・押印する
相続人間で遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てましょう。
3. 金融機関に必要書類を提出する
遺産分割協議が成立したら、金融機関に以下の書類を提出します。
- 証券会社指定の相続関連書類(相続手続き依頼書や同意書など)
- 特別口座の口座振替申請書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書
- 遺産分割協議書(原本)
- 株券
上記の書類を揃えて金融機関に提出することで、株式の名義変更手続きを進められます。なお、金融機関によって必要書類が異なる場合もあるため、事前に確認しておきましょう。
相続した株式の放置に関するFAQ

最後に、相続した株式の放置に関してよくある質問に回答します。
Q.株式を名義変更しないまま放置するとどうなる?
株式を名義変更しないまま放置すると、以下のような事態が起こることが考えられます。
- 株主としての権利を行使できなくなる
- 株主所在不明となり、株式が競売や公開買付けによって売却される
- 税務上のペナルティが課せられる
- 証券口座が休眠状態になる
後々になって大きな損失を被ることもあるので、株式を見つけ次第、早急に対処しましょう。
Q.放置されていた株式の未受領配当金の受け取り方は?
未受領配当金は、以下の手順で受け取れます。
- 証券会社や信託銀行に、未受領配当金の受取を依頼する
- 必要書類(戸籍謄本、印鑑証明書、相続人全員の同意書など)を提出する
- 指定した口座で配当金を受け取るか、配当金領収証を発行してもらう
ただし、未受領配当金の受取期限は、会社によって異なります。会社法の規定では配当金支払開始日から10年とされていますが、多くの上場企業では定款で3~5年程度に制限しています。
Q.放置されていた株式には相続税がかからないって本当?
被相続人の財産が基礎控除額を下回る場合は、相続税がかかりません。基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
基礎控除額=3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
一方、遺産総額が控除額を超える場合は、放置されていた株式についても相続税がかかります。
Q.放置されていた株式の証券会社がわからないときはどうすればいい?
まずは、被相続人の自宅を探索しましょう。被相続人の証券口座に関する手がかりが、自宅のどこかに眠っている可能性があります。
証券会社を特定できる書類には、以下のようなものが挙げられます。
- 取引残高報告書や年間取引報告書
- 証券会社からの郵便物
- 確定申告の控え
- 銀行口座の通帳の履歴
証券口座からの入金や証券会社への振込があれば、取引のあった証券会社を特定できる可能性があります。
それでも証券会社がわからない場合は、証券保管振替機構(ほふり)に証券口座の調査を依頼しましょう。ほふりは株式の振替制度を運営する機関であり、全国の証券会社の口座情報を管理しています。
ほふりに必要書類を提出し、所定の手数料を支払うことで、被相続人の証券口座の有無を調査してもらえます。
【参考】証券保管振替機構
Q.放置されていた株式の名義変更にかかる費用はいくら?
金額は証券会社によって異なります。具体的な金額は、証券会社に直接確認しましょう。