不透明な非上場株式を賢く譲渡する

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非上場株式の譲渡は、市場に上場していない会社の株を売買することです。上場株式と異なる大きな理由の一つは、「価格の透明性がない」という点です。
つまり、幾らで売れば良いのか、その適正価格がすぐには見えないのがこの世界です。
非上場株式譲渡における問題点
1. 評価の難しさ
非上場株式は市場価格がないため、適正な価値を評価することが難しいのです。このため、譲渡価格を決定する過程で税務上の問題が生じる可能性があります。
2. 税金の問題
譲渡益には所得税や住民税が課税されます。譲渡価格が適切に設定されていなければ贈与税も高くなる可能性があります。これらの点は、贈与する時期や、タイミング、方法などにより金額が異なってきます。売却で得た利益よりも税金が高くついては譲渡した意味がありません。高い買い物の場合なるべく余計な税金を抑えたいものです。
3. 法的規制
会社法やその他の法律による制限がある場合があり、譲渡
には会社の承認や特定の手続きが必要になることがあります。
■会社定款による制限
会社の定款で株式の譲渡に条件を設けられます。例えば、取締役会の承認を必要とする条項などが設定されることがあります。また株主同士で株式間契約をするにより、株式の自由な譲渡が制限されることがあります。
■商法や会社法の規定
商法や会社法では、非上場会社の株式譲渡に関して一定の規制を設けています。これには、譲渡制限の設定や譲渡の手続きに関する規定が含まれます。
これらの規制は、会社や既存株主の利益を守ることを目的としています。非上場株式の譲渡を検討する場合は、これらの法的規制に注意し、適切な手続きを踏む必要があります。
法的規制の解決策
専門の第三者機関に評価を依頼することで、客観的かつ適正な価値の評価を行うことができます。
■証券会社のプライベートバンキング部門
証券会社の中には、プライベートバンキング部門を持ち、高資産顧客向けに1対1で資産運用や譲渡戦略に関するアドバイスを提供する所があります。大抵、非上場株式の取引に詳しいアドバイザーが在籍しています。
■税理士
非上場株式の譲渡は、税務処理が複雑になります。譲渡によって発生する税金の計算や、税負担を軽減するための戦略を立てるには、税理士の専門知識が必要です。
■弁護士(特に企業法務に強い弁護士)
契約書の作成や譲渡に関する法的なアドバイスが必要な場合、企業法務に強い弁護士に相談することが重要です。特に、非上場株式の譲渡は契約内容が複雑になりがちなため、適切な法的サポートが不可欠です。
■M&Aアドバイザリーファーム
企業間での非上場株式の売買や合併・買収(M&A)に関する専門的なアドバイスが必要な場合、M&Aアドバイザリーファームに相談するのが良いでしょう。彼らは取引のマッチングから価格交渉、契約締結までをサポートします。小規模なM&A仲介サービスも利用してみるのは良い案だと言えます。
■投資銀行
大規模な取引や、特に複雑な取引を考えている場合、投資銀行のサービスを利用するのも一つの選択肢です。投資銀行は、企業の買収や売却、資金調達など、幅広い金融取引に関する専門知識を持っています。
ただし、全ての専門家が非上場株式を専門的に扱うとは限らないので相談する際は、その人の専門分野や経験、そして費用などを事前によく調べておくことが重要です。
取引相手を探す
非上場であるため、公開市場での取引は出来ず、なかなか難しい所です。しかし、幾つかのオプションがあります
1. 個人でつてを活用する
自身の仕事相手、業界内の関係者、友人や家族など、個人の関係を通じて買い手を探すことが一般的です。この方法は比較的非公式ですが、身内の信頼できる取引相手という利点があります。
2. M&Aアドバイザリーファームや投資銀行を利用
専門的な知識と広いネットワークを持つこれらの機関は、相談も受けながら買い手を見つけるためのサービスを提供しています。特に大きな取引や複雑な取引を検討している場合に適しています。
3. オンラインマーケットプレイスを利用する
オンラインマーケットプレイスは、非上場企業の株式を売買したい人をオンラインでつなげるプラットフォームです。これにより、売り手と買い手が一定の匿名性を保ちながら交渉を進められます。
4. 業界イベントや会議
業界関連のイベントや会議は、同じ分野の企業や投資家と直接接触できる機会を提供します。これらの場を利用して、非公式にまたは公式に買い手を探すことが可能です。
5. 専門のブローカーや仲介業者
非上場株式の売買を専門に扱うブローカーや仲介業者もいます。これらの専門家は、買い手と売り手のマッチングや、価格交渉、契約書の作成といったプロセスの支援を提供します。
非上場株式の売買は、公開市場での取引に比べて情報の非公開性が高く、複雑です。そのため、適切な買い手を見つけるためには、専門家のサポートを積極的に利用することが重要です。
非上場株式が譲渡されるケース
1. ファミリービジネスの後継問題
非上場の家族経営企業での株式譲渡は、後継者へのビジネスの移譲を含むことが多いです。このプロセスは、しばしば複雑かつ感情的になりがちで、企業の将来戦略や家族間の関係に大きな影響を及ぼすことがあります。
2. ベンチャーキャピタルからの出口戦略
非上場企業に投資したベンチャーキャピタルが、他の企業への売却や、あるいはIPO(株式公開)を通じて投資からの出口を図るケースです。このような譲渡は、非上場企業にとって新たな資本やパートナーシップの機会をもたらすことがあります。
3. 従業員株式所有計画(ESOP)
非上場企業が従業員に対して株式を譲渡する場合、これは従業員のモチベーション向上や長期的なコミットメントを促す手段として利用されます。この種の取引は、企業の文化や従業員の満足度にも影響を与えることがあります。
非上場株式の譲渡は個々の企業や事情によって様々です。勿論、非公開情報に触れる場合は、機密保持の観点からも注意が必要です。
株式譲渡の種類
株式譲渡
株式譲渡は、売り手企業の株主が自社の株式を買い手企業に移し、経営権を譲る方法です。株式譲渡契約を結んだ後、経営者は株式を譲渡し、代わりに現金を受け取ります。
事業譲渡
事業譲渡は、売り手企業が自社の事業全体または一部を買い手企業に移す方法です。このプロセスでは、関連する資産や権利義務が指定されて譲渡されますが、企業自体の譲渡ではありません。
つまり、譲渡されるのは事業に関連する具体的な資産や負債、従業員などで、企業の包括的な承継ではない点が特徴です。
以上のことから、事業に関連する資産や負債、従業員について個別に承継する必要があります。
株式交換
株式交換は、一方の会社がもう一方の会社の株式全てを取得し、完全な親子関係を形成する方法です。このプロセスは現金を必要とせず、売り手の株主が買い手の株主となります。
経営統合をスムーズに進めることができ、場合によっては少数株主を排除することも可能ですが、売り手側の経営者が全株式を保有していない場合には適用できません。
株主間での事前合意
譲渡に関する株主間の合意形成を行い、必要に応じて定款間契約の変更を検討します。このプロセスは、企業の株式譲渡や事業の一部を別の会社に売却する際に、株主同士が合意するためのものです。
1. 事前準備
譲渡に関する初期議論が行われ、譲渡の基本的な条件が検討されます。この段階では、非開示契約(NDA)の締結が求められることもあります。
2. 意向書(LOI)の交換
買い手と売り手は、譲渡の条件に関する意向書(Letter of Intent、LOI)を交換します。 LOIは法的に拘束力はないことが多いですが、取引の枠組みと基本的な条件を定めます。
3. デューデリジェンス
買い手は、売り手の財務状況、法的問題、事業運営などを
事細かに調査するデューデリジェンスを実施します。
4. 株主合意形成
譲渡条件が最終的に決定された後、株主合意のための議論が始まります。
株主は、譲渡に関する詳細情報を受け取り、質問や懸念事項を表明する機会を持ちます。
5. 合意書(契約)の作成
双方が合意に達したら、その条件を正式な文書にまとめ、売買契約や株式譲渡契約を作成します。
《株式譲渡契約書面における項目》
① 譲渡合意
② 譲渡代金の支払い方法
③ 株の所有権が変わった際に、その変更を会社の株主名簿に反映させる手続き(名義書換)
④ 株式や発行会社に関する内容が真実である事を保証する項目(表明保証)
⑤ 機密保持の取り扱いに関する条項
⑥ 紛争解決の手段
⑦ 契約解除
その他
これらを書面に盛り込み、契約後に誤解や紛争のないようにします。項目は各自それぞれの譲渡契約において、外したり、足したりして作り込む必要があります。
書式はインターネット上にひな形や参考例が色々あります。自身の契約にあったものを選んでダウンロードして書き換えたり、参考にして作ると良いでしょう。
6. 株主総会の開催
特定の取引では、株主総会での承認が必要になる場合があります。これは、株主の過半数または特定の比率の賛成が必要です。
7. 契約の実行とクロージング
契約書に署名し、必要な手続きを完了させます。これには、株式の移転手続きや対価の支払いが含まれます。
8. 移行期間
譲渡が完了した後、しばしば売り手と買い手の間で移行期間が設けられます。この間に、必要に応じて事業の移行支援が行われます。
非上場株式の譲渡におけるリスク
1. 管理価格の決定
非上場株式の価格は市場で容易に決定されないため、独立した評価を行う必要があります。この評価過程で、過大または過小に評価されるリスクがあります。
2. 流動性のリスク
非上場株式は市場での取引が少なく、売りたい時に容易に売却できない場合があります。これにより、資金計画に影響を及ぼす可能性があります。
3. 情報の非公開性
非上場企業は上場企業と比べて情報開示義務が少ないため投資決定の材料が限られています。これにより、不正確な情報に基づく判断をしてしまうリスクがあります。
4. 法的規制とコンプライアンス
非上場株式の取引は、証券法をはじめとする各種法律によって規制されています。適切な手続きを踏まずに譲渡を行うと、法的な問題に直面する可能性があります。
〜法的規制の尊守に失敗した事例〜
●証券取引法違反
●インサイダー取引
●詐欺など
これらの違反は、通常、情報の非公開性や価格決定の難しさを悪用したもので、重大な法的責任や信頼失墜につながります。
法的規制の尊守における具体的対策
1. 法律遵守のための教育とトレーニング
関係者全員が適用される法律や規制について十分な知識を持つことが重要です。定期的なトレーニングや最新情報の共有が役立ちます。
2. コンプライアンスチームの設置
大きな組織では、取引の法律遵守を監視し、アドバイスするコンプライアンスチームの設置が有効です。
3. デューデリジェンスの徹底
非上場株式の譲渡前には、財務状況、契約の義務、リスク要因などを詳細に調査することが必要です。これにより、隠れたリスクを事前に特定できます。
4. 適切な情報開示
取引に関する重要な情報は、適切に開示することが法律によって要求されている場合があります。情報開示の義務を遵守することで、透明性が保たれ、リスクが軽減されます。
これらの適切な管理戦略を行えばリスクはある程度回避出来ます。特に法的規制の尊守は、リスクを最小限に抑える上で最も重要な要素の一つです。
A氏の事例
A氏は関東の建設工事会社X社の先代社長から能力を認められ、代表取締役に任命され、一部の株も譲り受けました。
A氏の下でX社は業績を改善しましたが、先代社長が亡くなると、後継の息子によって解任されました。息子はA氏に対し、所有する株を額面価格の50円/株で手放すよう要求しましたが、A氏は納得せず第三者への売却を考えました。
X社は年商20億円の優良企業で、含み損を考慮した320円/株での買取を提案しましたが、X社側にとっては、薄価純資産法での主張を出して通ったりでもしたらかなわん、と態度を変え450円/株を要求し、最終的にその価格で第三者に買い取りが成立しました。
よってA氏は、X社提示価格の6倍という利益を生み出すことが出来たのです。
このケースは、企業評価における方法論(この場合は薄価純資産法)の適用と、それが交渉においてどのように戦略的に使われたかを示しています。
X社が最終的にA氏の要求を受け入れたのは、恐らく、法的な評価方法に基づいたA氏の主張が通るリスクを避けたかったためでしょう。
5.最後に
Ⅰ.経営者の交代が会社の株式価値に大きく影響する可能性があります。交代する前に第三者譲渡を成立させたほうがトラブル回避のためにもなります。それには見極めが肝心です。
Ⅱ .株式の価値評価は多面的なアプローチが必要です。ここは難しいので、ひとつ専門家に査定を行って貰い、査定額次第により価値が上下します。
Ⅲ. 法的紛争を避けるため、交渉による合意が最善の解決策となります。お家騒動等で気が重くなる事案もあろうかと思いますが、第三者を仲介させてでも話し合いを進めることが上手く解決する秘訣です。
譲渡は、取引の規模や複雑性、関係する管轄区域の法律によって、細部こそ違えど重要なのは、透明性を保ち、すべての関係者が情報に基づいた決定を行えるようにすることです。
専門家のアドバイスを積極的に求め、見えないことは積極的に相談するのが成功への道のりです。