株式非公開 どうする?株主!投資戦略

株式非公開化は、公開市場に上場している企業が、自社の株式を市場から撤退させ、非公開の状態に戻すことです。
株主にとっては株式の流動性が失われることを意味するため、投資戦略や将来の計画に影響を与える可能性があります。
非公開化の流れ自体が株主にとってはいわゆる新しい学習経験であるため、是非にこの経験を通じて投資に関する知識や見識が深まることを期待しましょう。
非公開化の背景・理由
多くの場合、非公開化は企業価値の向上や経営の自由度を高めるためです。具体的には、
- 四半期決算の開示義務がなくなり、長期的な視点の経営が可能になり経営陣は企業の長期的な成長戦略に集中できるようになります。
- 株主からのプレッシャーが減り、意思決定が迅速化します。経営陣はより迅速に意思決定を行い、戦略的な変更を容易に実施できます。
- 経営陣のインセンティブ報酬制度を柔軟に設計で きます。
- 買収の懸念がなくなり、事業再編が行いやすくなり短期的な業績から脱却し、長期的な価値創造に注力できます。
以上の理由はメリットに繋がります。
一方デメリットは?どういう点に注意を払わなければいけないのでしょうか?
株式非公開のデメリット
- 資金調達の困難
非公開化すると、株式や債券を通じた資本市場からの資金調達が難しくなり特に資金が必要な拡大フェーズにある企業にとって大きな障壁となる可能性があります。
- 買収コスト
非公開化プロセスは、株主への買い取りオファーを含め、高額な費用がかかり特に、市場価格以上を支払う必要がある場合、このコストは企業にとって大きな負担となります。
- 株主の反応
非公開化の決定は、株主からの抵抗に遭うことがあります。特に、長期的な投資家や、非公開化によって企業の将来性を高く評価している株主は、自身の投資が非公開化によってどんな影響を受けるか、懸念を抱くと予想されます。
株式の非公開化は、企業にとって重要な戦略的決定であり、そのプロセスを通じて企業が直面するメリットとデメリットを丁寧に評価する必要があります。
企業の目指す将来像と経営戦略によって、非公開化が最適な選択となる場合もありますが、その過程で発生する可能性のある問題提議にも十分注意を払う必要があります。
上場廃止に関するいくつかのキーワード
上場廃止とは企業が公開市場から撤退し、経営陣や特定投資家の手によって私的に運営されるようになることです。
しかし、非公開化後は株式の流動性はストップします。この過程は複雑で、多くの場合、法的および財務的な専門知識が求められます。
中小企業が非公開化する場合、いくつかの一般的な用語や概念、非公開化の流れに関連する主要なキーワードを理解する必要があります。
株式非公開化に関連する重要な用語
■非公開化(Going Private)
非公開化は、企業が公開市場から撤退し、非公開会社に戻る過程を指し、一定数の株主(特に公開市場における小規模な株主)を減らし、企業の所有権を限定的(経営陣、特定の投資家など)にして行われます。
■MBO(マネジメント・バイアウト)
MBOは、経営者が企業の将来に強い信念を持っている場合によく見られ、経営陣が自らの企業の株式を買い取って非公開化し、長期的な戦略をより自由に実行するのが狙いです。
具体的には、複数の株式を1株にまとめる『株式併合』や、株主総会の特別決議で可決されると取得できる『全部取得条件付種類株式』などの手法を活用します。会社法上の「現物出資」の手続きが必要です。
■スクイーズアウト
会社が特別決議によって、一定の条件の下で反対株主の株式を強制的に買い取ることができる制度。「全部取得条項付種類株式」の活用が一般的です。
■プライベート・エクイティ・ファームによる買収
プライベート・エクイティ・ファームは、非公開化を目的として、企業の株式を買収する投資会社です。買収した企業を再構築し、価値を向上させた後に売却することを目指し、企業に追加の資金を提供して、経営改善を促進します。
■テンダーオファー(TOB)
テンダーオファーとは、企業の買収、合併、または株式の非公開化などの際によく用いられ、企業や個人が株式会社の株主に対して、その株式を公開市場外で直接買い取ることを提案する手続きを言います。
テンダーオファー(TOB)の仕組み
TOBとは、上場企業の株式を一定の価格で買い取ることを株主に対して公開で申し入れる制度です。
- TOBの開始を公表し、買付価格や期間を決める
- 株主がTOBに応募すれば、指定の価格で株式を売却可能
- 一定の買付け予定数に達した場合、TOBが成立
- TOBで過半数の株式を取得できれば、残存株主の株式を全て取得可能(完全子会社化)
TOBの価格は、第三者機関の株価算定結果などを参考に決められます。
どうなる?少数株主
非公開化では、内部経営陣にとって有利な取引となる事が多いですが、気になるのはオーナーである少数株主側。上場廃止後に会社や株券がどうなるのかということ。これについては、上場廃止となった理由によって内容が変わります。
■理由が「破綻」
前述したように、基本的に株券の価値はなくなるため、上場廃止になる前に市場で売却することになります。そのため、破綻が発覚した時点で売りが押し寄せ、株価が1円に近付くわけです。
■「完全子会社化」など破綻を免れ上場廃止
まだ上場している段階で、親会社などがその株をTOB(株式の公開買い付け)によって買い集めます。
TOBされる際は、その株をいくらで買い取るかという「買い付け価格」が設定(多くの場合は、TOB発表前の株価に対して1~2割、上乗せされた価格になります)されるので、株主はこの価格で売るか、または上場廃止前に市場で自分で売るかを選択します。
なお、TOBに応じず持ち続けようとした場合、TOB実施側によって強制的にその株式を買い取られる可能性があります。
また、上場廃止となった株式は、売りたくても、もう上場していないわけですから、市場で売却することができません。その株式を管理している信託銀行などの「株主名簿管理人」を通して売却することになります。
しかし、上場中であれば数クリックで売却できるのに対し、上場廃止後は株主名簿管理人との間で手続きが必要になったり、確定申告時に損益通算(その年の利益と損失を通算して申告すること)ができなくなったりするなど、面倒なことになります。
非公開化が発表された!株価は?
- 短期的な株価の反応を理解する
非公開化の提案が公表されると、一般的にはその企業の株価は短期的に上昇します。これは、非公開化の提案が通常、市場価格以上の付加価値を付けて株式を買い取ることを意味するためです。
- 市場の反応を見守る
少数株主としては、提案直後の市場の反応を注意深く観察し、短期的な価格変動を利用して売却のタイミングを決めることができます。
- 株主が権利行使する具体的な方法
・株主代表訴訟の提起
会社に対して不当な行為があった場合、株主が代表して損害賠償を求める訴訟を起こすこともあり得ます。
・株主総会での議決権行使
重要事項は株主総会の特別決議が必要。反対株主は議決権を行使して反対意思を示します。
・検査役選任の申立て
株式会社の業務、財産状況を調査する検査役の選任を裁判所に求めることができます。
株式非公開化に伴う株主の選択肢
ここでは持ち株が非公開化となったときの少数株主が取るべき対応をいくつかまとめました。参考にしていただければ幸いです。
- テンダーオファーへの対応
非公開化の流れでは、買収者から株式を一定価格で買い取るテンダーオファーが告げられたら、株主は、このオファーに応じて株式を売却するか、持ち続けるかを選択できます。
よほど深い事情がない限り、上場廃止がわかったら、上場している間に売却したほうが無難かと思います。
- 権利行使の検討
特定の条件下では、少数株主が不公平な取引条件に対して異議を訴える場合があります。自身の権利を理解し、必要に応じて法的な相談を行うことが重要です。
- 税務上の影響を評価する
株式の売却による利益には税金がかかるため、非公開化に伴う取引前後での税務上の影響を評価し、適切な税務対策を講じることが重要です。
■税務対策の具体的な内容
- 株式売却損益の損益通算
株式の譲渡損失は、その年に生じた他の譲渡益や 不動産収入、給与収入などの様々な所得と通算が可能になるので株式の売却による譲渡損失があれば、他の株式の譲渡益や不動産収入などとの損益通算ができます。
この損益通算により、総合課税での課税所得金額が減額されるため、最終的な確定申告時の税額が下がります。
- 株式の交換・移転による非課税措置の検討
買収時に発行される新株を適切に受け取ることで、一時に課税が生じないよう措置を検討します。
- 株式報酬特例の活用
株式報酬特例の適用を受けて株式を現物支給すれば一時所得として課税されません。具体的な法的根拠や手続き、節税対策などを意識することで、株主の権利を守りつつ、合理的な対応が可能となります。
- 総合的な戦略立案
こまめに情報収集と分析をして、非公開化の提案の詳細、背景、企業の将来性を慎重に評価します。
- 専門家の助言を受ける
顧問弁護士や財務アドバイザーなど、専門家の助言を求めることで、自身の権利と選択肢を正確に理解し、最適な決定を下すことができます。
法的手続き
日本の場合、会社法に基づき、以下の手続きが必要です。
- 株主総会での非公開化に関する特別決議の承認
- 反対株主への株式買取請求権の付与
- 公開買付け(TOB)による一般株主から株式を取得
- 残存株主から全株式を強制取得(株式併合など)
特に株主総会の特別決議と公買 付けが重要なプロセスとなります。
〈非公開事例その1 デル・テクノロジー〉
非公開化のデメリットを乗り越えて成功したケースとして、デル・テクノロジーズの事例が有名です。
2013年、デルはマイケル・デル(創業者)とシルバー・レイク・パートナーズ(プライベート・エクイティ会社)によって非公開化されました。当時、デルは低迷するPC市場と激しい競争に直面しており、会社の転換と再構築が必要でした。
~非公開化のメリット活用〜
デルは非公開化により、公開企業としての四半期ごとの業績圧力から解放され、長期的な戦略に集中。戦略的な焦点の変更と、強力なリーダーシップを構築して行きます。非公開化によって、デルは技術業界における主要企業として成功しました。
また、新しいビジネスモデルへの移行、特にエンタープライズソリューション、クラウドコンピューティング、データ管理への重点シフトを加速させました。
〜成功の鍵〜デルの非公開化とそれに続く再構築の秘訣とは?~
数年後の2016年に、デルはEMCコーポレーションを買収し、デル・テクノロジーズとして再上場しました。この買収は、データストレージとクラウドベースの製品とサービスにおけるデルのポジションを強化し、その業界のリーダーとして存在感を露わにしました。
結果としてデルのケースは、非公開化を適切に管理され、戦略的に実行されたときに、企業の再構築と長期的な成長を促進する強力な手段となることを示しています。
『敵対的買収』への対策として、株式非公開化を選択したとも言えます。敵対的買収のターゲットになるのは、市場で株式を売買できる上場会社です。上場していなければ株式を買収されないため、敵対的買収に歯止めをかけました。
情報の可視性の低下などのデメリットを乗り越え、内部の革新を通じて、より強固で競争力のある企業へと変貌を遂げた良い例と言えます。
〈非公開事例その2 東芝〉
日本で最も歴史があり、最も大きな企業の一つである東芝が、株式市場での74年間の歴史に幕を下ろすことになりました。非上場化を目指す投資家グループが、同社株式の大半の買い付けに成功したからです。
東芝のルーツは1875年。当初は時計やからくり人形を製造していました。日本の屋台骨と言われた白物家電で順調に経営を伸ばし、やがて日本を代表する家電メーカーの一つになりました。
経営は順調に見えたのですが2015年、6年間で1500億円以上の利益を過大計上していたとし、73億7000万円の課徴金を支払いました。課徴金としては当時、過去最高額でした。
〜決定的な赤字損失〜
その2年後には、傘下の米原子力事業会社ウェスチングハウスが7000億円という大きな損失を出しました。
東芝は倒産を回避するため、2018年に半導体事業を売却した。
一時は会社を分割するか迫られていたようですが、この分割案が実行される前に、同社の取締役会はJIPからの非上場化の方向に転換しました。これからの動きを見守るばかりです。
非上場株の譲渡と株式非公開化は、長期的な投資家にとって、終わりではなく新たな第一歩です。この変化を前向きに捉え、再評価、再投資、そして学びを通じて、皆様の投資をより豊かにしていただければ此上ありません。
『敗戦とは、自分は負けてしまったと思う戦いのことである。』(J.P.サルトル/フランスの哲学者、小説家、劇作家 / 1905~1980)すべての投資家に言える格言です。