非上場株式で配当を得る可能性のあるあなたへ

[toc]

非上場株式を所有し、配当収入を期待するのは楽しみですが、その前に知識をきちんと整理しておかないと大失敗してしまう可能性があります。 

非上場株式は情報が限られており、そのリスクを十分に理解している人は少ないでしょう。非上場株式の配当については、上場株式と比べて一般的な情報が少なく、透明性が低いという特徴があります。

非上場会社が配当金を出すかどうかはその会社の業績、経営方針、現金流入の状況などに大きく依存し、会社によって大きく異なります。第三者の株主から要求を受けて、改めて考える非上場企業のオーナーもいらっしゃるのではないでしょうか。

 

  1.   非上場会社は業績に依存する

非上場会社の配当は、直接的にその会社の業績に依存します。会社が良い業績を上げ、十分な利益と現金流入を確保している場合、配当を出す可能性が高まります。

  1.   経営者の意向

非上場会社では、経営者や主要株主の意向が配当政策に大きく影響します。利益を再投資して成長を優先する会社もあれば、株主に対して安定した配当を提供することを重視する会社もあります。

  1.   配当の不定期性

非上場会社の配当は、定期的ではない場合が多く、毎年配当があるとは限りません。配当がある年とない年があるかもしれません。

  1.   情報の入手困難

非上場会社は、上場会社のように定期的に財務諸表を公開する義務がないため、配当に関する情報が入手しにくいことがあります。

 

非上場株式の配当を期待する場合は、会社が安定して利益を出しているか、財務状態は健全かを確かめることが重要です。 配当以外にも、会社の成長に伴う株価の上昇によるキャピタルゲイン(資本利得)を期待することもできます。 

配当を期待する場合は、その会社が属する業界の状況、経済全体の状況、そして何よりその会社の業績、これらの要素を綿密に分析し、長期的な視点で投資判断を下すことが重要です。

 

持ち主のあなたが会社のオーナーになる

非上場株式を保有することは、その会社のオーナー(株主)であることを意味します。会社の所有権の一部を持っていることになり、利益が出た場合には配当を受け取る権利があるほか、会社の経営に対する発言権も持つことができます。
非上場会社の株主として、配当や会社の成長による利益を期待する一方で、会社の業績や財務状態、経営陣の方針などについて理解を深めることが大切です。また、株主総会などを通じて、経営に対する意見を述べる機会も持てるため、積極的な関与が望まれます。

 

運営を他人に任せ配当だけ頂く

非上場会社の株式を保有している場合、経営に直接関与せずに、他の人に運営を任せるという選択もあります。
経営に関わることなく配当を得ることを目指す株主は、パッシブインカム(受動的所得)を得る戦略の一環としてこれを行うことがあります。
この手法は特に、ビジネスに対する深い知識がない、または経営に日々関与する時間や意欲がない投資家にとって魅力的です。
ただし、運営を他人に任せる場合、以下の点を見極めます。

信頼性のある経営チーム
会社を運営する人々の信頼性を築き経営チームを作ります。経験豊富で、会社の成長を促進し、株主価値を最大化する能力があるかどうかを評価する必要があります。

定期的な報告とコミュニケーション
経営者との定期的な報告やコミュニケーションを通じて、会社の業績や財務状況について透明性を確保することが理想的です。これにより、株主は自身の投資が適切に管理されていることを確認できます

配当政策の理解
何よりも、会社の配当政策を理解し、配当の支払いが期待通りに行われるかどうかを確認することが大切です。
運営を他人に任せることの利点は、自分自身で経営に関わることなく収益を得ることができる点にありますが、会社の運営状況や財務健全性について定期的にモニタリングする労力も、長期的な投資成功には不可欠です。

例〜小規模な家族経営企業〜
あなたの親族や知人が所有する中小企業があり、あなたがその一部の株式を持っているとすると、その企業が利益を出した年には、その利益の一部が配当として、その企業で働いていなくても、配当金として受動的所得を得ることができます。

例〜スタートアップ企業〜
技術革新を行っている非上場のスタートアップ企業に初期段階で投資したとして数年後、その企業が成長し、配当を支払い始めた場合、投資した株式から受動的所得を得ることができるでしょう。

非上場株式の配当を予想してみよう

非上場株式の配当を予想するのに、配当還元方式という評価方法を使ってみます。この方法では、過去2年間の配当金の額を10%で割戻して非上場会社の株価を求めます。株価が分かれば、株主の保有株数に応じて配当金の額を計算できます。
配当金の増減率や配当利回りなどの指標も参考になります。

〜あるIT企業の非上場株式のシミュレーション〜

あるIT企業の非上場株式について考えてみましょう。

◆過去2年間の配当金の額は、1株あたり100円と120円でした。

◆株主は1000株を保有しています。

◆配当金の増減率は、3年平均で5%、5年平均で7%です。

◆配当利回りは、3年平均で2.5%、5年平均で3%です。

◆配当還元方式(Dividend Discount Model, DDM)

配当還元方式(Dividend Discount Model, DDM)は、企業から将来受け取る予定の配当金の現在価値を割り引いて、株式の理論的な価値を算出するために使用される式です。

(V⁰)は配当金の価値を表します。
(D₁) は次期に受け取る予定の配当です。
(r)は株式の要求収益率(割引率)です。
(g)は配当の成長率です。

 

この場合、配当還元方式で株価を求めると、以下のようになります。

株価 = (100 + 120) / 0.1 = 2200円
配当金の額 = 株価 × 株数 × 配当利回り
3年平均での配当金の額 = 2200 × 1000 × 0.025 = 55,000円
5年平均での配当金の額 = 2200 × 1000 × 0.03 = 66,000円

配当利回りが高いほど、株価に対する配当金の割合が高くなります。配当金の増減率が高いほど、将来の配当金の額も高くなる可能性があります。

ただし、配当金の支払いには会社法や税法に関する手続きや留意点がありますので、注意が必要です。

 

非上場株式配当の注意すべきところ
非上場株式の配当金は、上場株式と非上場株式、どちらの売却損とも相殺することができません。日本の税制では、上場株式と非上場株式が異なる資産とみなされ、それぞれの取り扱いが異なります。非上場株式の配当は他の所得と相殺できず、非上場株式の売却損も相殺や繰り越しは認められていませんが、税制の変更をチェックし、最新情報の確認が重要です。

 

非上場株式の売却損は、3年間繰り越しができない
非上場株式の売却損に関して、上場株式とは異なり、上場株式の売却損は、繰越控除を利用し最大3年間繰り越して、他の年度の所得から控除することが可能ですが、非上場株式の売却損にはこのような繰り越し控除が通常適用されません。

通常、利益の分け前が「配当」として支払われますが、非上場株式を発行会社に譲渡するなどの条件を満たすと、みなし配当が発生する可能性があります。

《みなし配当》


「交付金銭等の額」−「資本の払戻等により取得した金銭等の合計額」

 

みなし配当が適用されるのは、例えば、実際には配当が行われていないにも関わらず、会社が株主に対して非常に高い価格で自社株を買い取る(実質的な利益分配が行われる)場合や、会社の解散により残余財産が分配される場合など、実質的に株主に利益が分配されるとみなされるケースです。

 

《法人税法第24条「配当等の額とみなす金額」定義》
個人株主がみなし配当を受け取った場合、所得税法、配当所得として取り扱われます。
非上場株式の配当所得は総合課税となり、上場株に適用される分離課税ではない点に留意が必要です。
税率は所得金額が大きくなればなるほど税率が高くなる累進課税となり、税率5%~45%の範囲となります。
住民税の所得割は税率10%となるため、所得税と住民税を合わせると、みなし配当の税率は15%~55%となります。

所得税の税率(国税庁)

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円から1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円から3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

みなし配当課税の特例は、相続や遺贈で受け取った非上場会社の株式を会社に売却した際、通常の譲渡所得ではなく配当として課税する制度です。この措置は、事実上の配当を受け取る行為に対し税務上の公平性を保つために設けられています。

 

具体例A氏のケース

A氏は、父が代表者であったB社に関与を開始しました。同時に代表者一族の確定申告業務も受任しました。
A氏は、B 社を相続開始し、B社の株100,000株を所有します。
B社の代表者となっていたA氏がB社の関連会社であるC社株式200,000株を相続取得し、従来の持株100,000株と合わせてC社株式は300,000株となりました。
相続資金捻出のため、A氏の所有するB社株式のうち100,000株をC社に、100,000株をC社社長に譲渡することで合意しました。
「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」(以下単に「みなし配当課税の特例に関する届出書」という)の適応が発生しました。

 

 

A氏のケースで計算のポイントを見ていきましょう。計算には以下の価額が必要です。(計算に用いるよう仮の価額を設定しました。)

● 相続税評価額(B社株式の取得費用): 5,000円/株
● B社株式(B社株式の譲渡価額): 7,000円/株
● 譲渡価格(譲渡株式数): 100,000株

 

 

1. 取得費用の計算
取得費用 = 5,000円/株 × (B社の株)100,000株 = 500,000,000円
相続で取得した非上場株式の取得費用は、相続税の申告で用いた評価額(相続税評価額)を基にします。

 

2. 譲渡所得の計算
譲渡価額 = 7,000円/株 × 100,000株 = 700,000,000円

 

3. みなし配当の計算
譲渡所得がプラスの場合、その所得の全額がみなし配当として課税されます。
譲渡所得 = 譲渡価格 – 取得費用
譲渡所得 = 700,000,000円 – 500,000,000円 = 200,000,000円

 

この場合、譲渡所得の200,000,000円がみなし配当とみなされ、課税されます。

所得税 = 200,000,000円 × 15% = 30,000,000円 復興特別所得税 = 200,000,000円 × 2.1% = 4,200,000円 合計 = 34,200,000円

以上が、A氏のケースでのみなし配当課税の特例の適用による課税額です。
尚、この特例を受けるために、発行会社は「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに、税務署にこの届出書を提出する必要があります。絶対に忘れないようにして下さい。

国税庁ホームページ
A2-31「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」用紙ダウンロード等
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_54.htm

Q.このケース、みなし配当課税適応でなかったら、どれくらい税金を支払うことになりますか?(確か届出書を出し忘れた場合も、そうでしたね?)

A.みなし配当課税の特例が適用されない場合、A氏が非上場株式を譲渡したことによる税金は、譲渡所得に対する所得税(および復興特別所得税)の計算方法が異なります。
みなし配当ではなく、一般的な譲渡所得として扱われるため、譲渡所得に対する税率が適用されます。
日本の税制において、非上場株式の譲渡所得に対する税率は、所得税率と住民税率を合わせたものが適用されます。
2023年4月時点での情報を基に説明しますが、所得税率は最大で20%(所得税15%+復興特別所得税0.315%を含む)と、住民税が10%程度であることを考慮すると、合計で約30%程度の税率が適用されることになります。
みなし配当課税が適用されない場合の計算は以下のようになります。

 

1. 譲渡所得
譲渡所得 = 700,000,000円(譲渡価額) – 500,000,000円(取得費用) = 200,000,000円

2. 所得税の計算(所得税 + 復興特別所得税)
所得税 = 200,000,000円 × 約20% = 40,000,000円

3. 住民税の計算
住民税 = 200,000,000円 × 10% = 20,000,000円

4. 合計税金
合計 = 40,000,000円(所得税) + 20,000,000円(住民税) = 60,000,000円

従って、みなし配当課税の特例が適用されない場合、A氏が支払う税金の合計は約60,000,000円となり、特例適用時の34,200,000円と比較して、より多くの税金を支払うことになります。

再度触れますが、受けた日の属する年の翌年1月31日までに、税務署に上記の届出書を提出する必要がありますので絶対に忘れないで下さい。

この計算は、一般的な例としての税率を用いており、実際の税率や計算方法は個々の具体的な状況や税法の改正によって異なる場合があります。正確な計算や税務上のアドバイスについては、税理士や専門家に相談することをお勧めします。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次