株式の相続税はいくら?計算方法や評価額の出し方などについて解説

相続遺産の中に株式が含まれていることを知ったものの、相続税をいくら払えばよいかわからず困っている方も多いのではないでしょうか。相続税を払えなくなったり、相続人同士のトラブルが起きたりするのを防ぐためには、株式の相続税に関する知識をつけておく必要があります。
本記事では、株式に課税される相続税の計算方法や、評価額の出し方について解説します。相続手続きの流れや、節税方法もあわせてお話しするため、ぜひ参考にしてください。
株式にかかる相続税を計算する流れ
株式にかかる相続税は、以下4つの手順で算出します。
1.株式の相続税評価額を算出する
まずは、株式の相続税評価額(相続税算出の根拠となる価値)を計算します。
株式の相続税評価額の算出方法は、上場株式と非上場株式で異なります。
2.株式を含めた遺産総額を算出する
次に、株式以外に相続した遺産も全て含めた金額を算出します。例えば預金や不動産、車なども相続している場合は、これらと株式を合わせた遺産総額を把握する必要があります。
相続した遺産によって、相続税評価額の算出方法が異なるため、実際に計算する際は遺産ごとに確認しましょう。
3.課税遺産総額を算出する
遺産総額がわかったら、続いて課税遺産総額(課税対象となる遺産総額)を算出します。
前提として、遺産総額が全て課税対象となるわけではありません。なぜなら「基礎控除」という制度があり、遺産総額から一定以上の金額が引かれるためです。
基礎控除の金額は、下記の式で算出します。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人(民法により相続の権利を認められている者) |
例えば、法定相続人が3人の場合は
3,000万円+600万円×3=4,800万円 |
上記が基礎控除額として遺産総額から引かれて、残額が課税対象となります。
また遺産総額からは、基礎控除だけではなく被相続人の負債や葬式費用も引かれます。仮に、遺産総額を基礎控除額や葬式費用などが上回った場合は、相続税は課税されません。
4.金額に応じた税率を掛けて税額を算出する
課税遺産総額が決まったら、金額に応じた税率を掛けて控除額を差し引き、実際に支払う相続税額を算出します。相続税の税率は、課税遺産総額が大きくなるほど高く設定されています。
課税遺産総額と税率の早見表はこちらです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税を計算する際は、ぜひ活用してください。
なお、配偶者が相続する場合は「配偶者控除」として、以下2つのうちいずれか多いほうの金額まではさらに控除として差し引きができます。
・1億6千万円
・配偶者の法定相続分相当額
被相続人の配偶者の方は相続税がかなり安くなるので、適用するのを忘れないようにしてください。
株式の相続税評価額の出し方
続いて、上場株式と非上場株式それぞれについて、相続税評価額の算出方法を見ていきましょう。
上場株式の場合
上場株式の相続税評価額は、一定期間の終値の平均値をもとに算出します。具体的には、次の4つの価格が相続税評価額を算出する際の基準となっており、最も低いものを選べます。
1. 相続があった日の終値
2. 相続があった月の終値の平均額
3. 相続があった月の前月の終値の平均額
4. 相続があった月の前々月の終値の平均額
また「相続があった日の終値」について、相続が土日や祝日にあった場合は、株式市場が閉まっているため株価がわかりません。そのため、最も近い取引日の終値を使います。
例えば、被相続人が土曜日に亡くなった場合は、その前の金曜日の終値が対象となります。
ちなみに新株割当てや配当支払いがあるケースでは、株価が一時下落していることがあり、基準となる終値とみなされない可能性があるため要注意です。株価が一時下落している状況では、その日の前日の終値をもとに相続税評価額を算出します。
非上場株式の場合
非上場株式は、株式市場に上場されていないため、市場価値がわかりません。したがって、会社の財務状況や業績をもとに価値を評価します。
非上場株式の評価方法は「原則的評価方式」と「配当還元方式」の2種類があります。
原則的評価方式とは、従業員数や総資産価額、売上高などをもとに株式の評価額を算出する方法です。
原則的評価方式は、さらに以下の3種類に分けられます。
方式 | 概要 |
---|---|
類似業種比準方式 | 似た業種の上場会社の株価をもとに株式の評価額を算出する方式 |
純資産価額方式 | 会社の資産(建物や機械など)と負債をもとに株式の評価額を算出する方式 |
併用方式 | 類似業種比準方式と純資産価額方式を組み合わせて株式の評価額を算出する方式 |
基本的には、大企業の株式の評価額は類似業種比準方式、中小企業の場合は純資産価額方式で算出されます。
一方の配当還元方式は、「同族株主以外の株主が取得した株式」の評価額を算出する際に用いられることが一般的です。
配当還元方式とは、過去数年間の配当金額の平均をもとに、将来の配当を予測して株式の評価額を算出する方法のことです。
このように非上場株式の場合は、株式の相続税評価額の計算方式が複数存在するため、適切なものを選びましょう。
株式にかかる相続税の計算シミュレーション
今回は、株式を含めた遺産総額が5,000万円という前提で、相続人の数などによって相続税額がどのように変わるのか見ていきましょう。
被相続人の配偶者の有無 | 有 |
---|---|
配偶者の遺産取得割合 | 50% |
配偶者以外の法定相続人 | 子 |
配偶者を含む法定相続人の数 | 3人 |
相続税額 | 10万円 ={5,000万-(3,000万+600万×3)×10%×(100-50%)} |
被相続人の配偶者の有無 | 無 |
---|---|
配偶者の遺産取得割合 | 0% |
配偶者以外の法定相続人 | 父母 |
配偶者を含む法定相続人の数 | 2人 |
相続税額 | 80万円 ={5,000万-(3,000万+600万×2)×10%} |
被相続人の配偶者の有無 | 有 |
---|---|
配偶者の遺産取得割合 | 40% |
配偶者以外の法定相続人 | 兄弟姉妹 |
配偶者を含む法定相続人の数 | 3人 |
相続税額 | 12万円 ={5,000万-(3,000万+600万×3)×10%×(100-40%)} |
上記のように、株式を含めた遺産総額が5,000万円であっても、相続税額は数十万円程度で収まるケースが多いです。
株式の相続に必要な手続き
株式を相続する際は、4つの手続きを踏む必要があります。スムーズに相続するためにも、流れや必要書類を把握しておきましょう。
1.証券会社へ連絡する
まずは、被相続人が株式を保有している証券会社に対して、相続が発生したことを連絡します。株式の名義変更や、その他の手続きを進めるためです。
証券会社に連絡すると、相続手続きの詳細や必要書類について教えてもらえます。
2.必要書類を用意する
株式の相続手続きを進めるためには、多くの書類を用意する必要があります。また、証券会社が判明しているかどうかによって、必要な書類が異なるため要注意です。
まずは、証券会社が判明している場合の主な必要書類を見ていきましょう。
書類 | 概要 |
---|---|
戸籍謄本(相続人全員分) | 故人と相続人の関係を証明する公的書類 |
印鑑証明書(相続人全員分) | 印鑑の所有者を証明する公的書類 |
住民票や本人確認書類(運転免許証やパスポートなど) | – |
被相続人の死亡証明書 | 被相続人の死亡を証明する書類 |
被相続人の戸籍謄本 | 戸籍に記載されている全員の身分事項を証明する公的書類 |
株式の名義変更請求書(証券会社などの指定様式) | 株式の名義を被相続人から相続人へ変更するための書類 |
遺言書または遺産分割協議書 | – |
次に、証券会社が不明なケースですが、まずこちらを特定しなければなりません。そのため、証券保管振替機構(ほふり)へ情報開示請求する必要があります。
請求の際は、情報開示請求書や法定相続人の本人確認書類、相続人の戸籍謄本を用意しましょう。
株式相続の手続きの際は、このように多くの書類が必要となります。抜け漏れが出ないように、チェックリストを作成するなどの対策を講じましょう。
3.相続人の証券口座を用意する
株式を相続する際は、相続人自身の証券口座が必要です。相続人自身の証券口座がないと、株式の名義を相続人へ変更できないためです。
まず、相続人が既に証券口座を持っている場合は、その口座を使用できます。一方で持っていない場合は、新たに証券口座を開設する必要があります。
証券口座の開設は、証券会社のWebや店舗にて可能です。証券口座の開設に必要な書類は、主に以下の通りです。
・本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
・マイナンバーカード
・証券会社の口座開設申込書
4.株式を相続人の口座へ振り替えてもらう
最後に、株式を相続人の口座へ振り替えてもらうことで手続きが完了します。この段階で、株式の所有権が被相続人から相続人へ移転し、株式の売却などができるようになります。
株式にかかる相続税の節税方法
株式にかかる相続税は、少ないに越したことはないでしょう。そこで、株式にかかる相続税額を抑えるための方法もあわせて解説します。
株式を生前贈与してもらう
生前贈与とは、相続としてではなく、被相続人の存命中に贈与として財産を受け取ることです。
株式を生前贈与をしてもらうことで、価値が相続時に高騰した場合でも、相続税額は株式の贈与時の価値をもとに算出されます。そのため、相続税を抑えられる可能性があります。
また、贈与税を算出する際も、課税対象額に対して基礎控除が行われます。基礎控除額は、1年間につき110万円です。
ちなみに贈与を受ける際は、「相続時精算課税制度」と「暦年贈与」のうち、いずれかを選択する必要があります。併用はできません。
相続時精算課税制度と暦年贈与の概要は、以下の通りです。
相続時精算課税制度 | 贈与財産の価額の合計額から最大2,500万円を控除できる制度 |
暦年贈与 | 課税対象額から1年間につき110万円を控除できる贈与方法 |
株式の評価額を下げる
非上場株式かつ自身が企業のオーナーである場合は、株式の評価額を下げて相続税を節約することも可能です。非上場株式の評価額は、会社の財務状況や業績に基づいて計算されるため、これらの要素をコントロールすることで株式の評価額を下げられます。
株式の評価額を下げる具体的な方法は、以下の通りです。
方法 | 具体例 |
---|---|
利益の減額 | ・新たな設備投資 ・従業員へのボーナス支給 ・研究開発費の追加 |
純資産の減額 | ・保有不動産の売却 ・新たな借入 |
ただし、株式の評価額を下げることで、経営に悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。株式の評価額を下げる場合は、慎重に計画を立てたうえで実行しましょう。
条件に応じて特例を活用する
条件次第では、国が用意している相続税減額のための特例を活用できます。主な特例として、以下のものが挙げられます。
特例 | 概要 |
---|---|
取得費加算の特例 | 相続開始翌日から「相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日」までの間に相続した株式を譲渡することで、相続税の一部を譲渡所得から控除し、譲渡所得税を減額できる。 |
みなし配当課税の特例 | 相続開始翌日から「相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日」までの間に、相続した非上場株式を発行会社に譲渡した場合、譲渡所得にかかる所得税の税率を15%にすることができる。 |
非上場株式の納税猶予及び免除の特例 | 先代経営者から非上場株式の贈与を受けた際に、最大100%の納税猶予または免除を受けられる。 |
特例を活用することで、相続税の負担を大きく減らせる可能性がありますが、実際に適用されるかどうかは個々の状況によります。特例の活用によって、より確実に相続税の負担を減らしたいのであれば、専門家からアドバイスを受けることも有効な選択肢の一つです。
株式の相続税に関するFAQ
最後に、株式の相続税に関してよくある質問に回答します。
株式の相続税はいくらから発生する?
株式の相続税は、「課税遺産総額」が「基礎控除額や負債などの合計」を上回った場合に課税されます。例えば、基礎控除額と負債の合計が5,000万円の場合、課税遺産総額のうち5,000万円を超える部分のみが課税対象となります。基礎控除額は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」で算出可能です。
相続した株式を売却すれば税金はかかる?
相続した株式を売却する場合、譲渡所得税が課税されることがあります。株式の譲渡所得税とは、「株式の売却価格」と「相続時の評価額」との差額(利益)に対して課される税金のことです。
例えば、相続時に1株あたり1万円で評価された株式を1万5,000円で売却した場合、利益である5,000円に対して譲渡所得税が課税されます。
株式にかかる相続税は物納でもできる?
株式にかかる相続税は、現金での支払いだけでなく、相続した財産そのものや他の資産を使った物納も可能です。例として、相続した株式や不動産などを使って相続税を支払うことができます。ただし、物納を利用する際は税務署の承認が必要です。