家族間で株式譲渡する方法・手続き・かかる税金・節税について

家族間で株式譲渡したいと考えているものの、具体的な手段や手続きがわからなくて困っている方もいるのではないでしょうか。また、家族間での株式譲渡にかかる税負担の大きさがわからず、不安になるケースもあると考えられます。
本記事では、家族間で株式譲渡する際に必要な知識について解説します。譲渡方法や手続きだけではなく、節税方法までまとめて紹介するため、ぜひ参考にしてください。
株式を家族に譲渡する方法
株式を家族に譲渡する方法は、以下のとおりです。
- 贈与
- 民事委託
- 相続
- 売買
それぞれの概要やメリット・デメリットを見ていきましょう。
贈与
贈与とは、無償もしくは身の回りの世話などの行為に対するお礼などとして、財産の授受を行うことです。贈与には「生前贈与」と「遺贈」、「民事委託」の3種類があり、それぞれ特徴が異なるため、混同しないように押さえておきましょう。
生前贈与
生前贈与とは、贈与者の存命中に行う贈与のことです。節税メリットが大きいため、家族に株式を譲渡する方法として生前贈与が選ばれやすい傾向があります。
生前贈与のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | ・年間110万円までの譲渡は贈与税がかからない ・相続時精算課税制度を使うことで2,500万円まで非課税で譲渡できる ・経営者が存命中に後継者を指定し、株式譲渡を開始できるため、相続よりも経営者の意思を反映させやすい |
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デメリット | ・経営者が贈与後3年以内に亡くなると、その贈与は相続として扱われ、相続税の対象となる |
なお、生前贈与のデメリットは、以下2つの方法によって防げる可能性があります。
- 早めに計画を立てて贈与を行う
- 相続としてみなされないように、共同相続人以外の者に贈与する
計画的に行うことで家族への株式譲渡をスムーズにし、かつ税負担を効果的に軽減できます。
遺贈
遺贈とは、遺言書によって財産を贈与することです。遺言を残す必要があり、贈与の相手は法で定められた相続人でなくてもよい点が、相続と異なります。
生前贈与が生前に財産を無償で譲る契約であるのに対し、遺贈は遺言者の一方的な意思表示です。生前贈与は特別な様式がなく、口頭でも成立しますが、遺贈は法令で定められた所定の様式による遺言書で行わなければなりません。
遺贈のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
メリット | ・遺言書を作成するため相続人間の揉め事を減らせる ・与える割合を指定できる ・法定相続人ではない親族(子がいるケースの孫や兄弟姉妹、甥や姪など)にも財産を贈れる |
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デメリット | ・遺言書の作成に手間がかかる(ミスがあった場合に無効となる可能性がある) ・相続人が相続放棄することで他の相続人間で争いが発生する可能性がある |
遺言書の作成には手間がかかるものの、死後に相続人間でのトラブルを最小限にするためにも、用意することをおすすめします。
民事委託
民事信託とは、信頼できる親族や知人などを受託者として、信託契約を締結する制度のことです。信託とは、財産の管理や処分を行うことで、委託者は自身が判断能力がある間に財産の管理や処分について受託者へ託します。
また民事信託は家族間で設定する「家族信託」もでき、自社株式の管理・処分の委託もできます。
民事信託のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | ・受益者の設定や事業承継が実行される条件など、経営者の意向に基づいた条件をつけられる ・経営者が亡くなると同時に、経営権が自動的に指定された後継者に移動するため、空白期間ができない |
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デメリット | ・経営者の死亡による事業承継が前提となるため、健康なうちに承継したい場合には利用できない ・遺留分減殺請求をされたときの対処法が明確に定まっていない |
遺留分減殺請求とは、特定の相続人にだけ有利な遺産分配がされた場合、他の相続人が自分が受け取れる最低限の遺産の取り戻しを請求できる制度のことです。経営者だけで株式譲渡の内容を設定すると、他の親族からの不満により遺留分減殺請求をされる可能性があるものの、対処法が明確でないため却下できない場合があることは理解しておきましょう。
相続
株主が死亡した際は、株式の相続が行われます。相続のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | ・遺言書で後継者と株式の割合を明確に指定することで、法定相続人間のトラブルを防ぎやすくなる ・遺言書を通じて後継者への経営権の承継をスムーズに実施できる ・基礎控除額(3,000万円+法定相続人一人あたり600万円)を活用することで、相続税の負担を軽減できる可能性がある |
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デメリット | ・相続準備が不十分な場合、後継者以外の法定相続人に株式が渡り、経営権の承継が困難になるリスクある ・後継者以外の法定相続人が遺留分侵害額請求を行った場合、経営権が分散し、企業経営に影響を及ぼす可能性がある ・遺言書は、法令に沿った正式な形式でなければ無効となるリスクがある |
遺言書の作成に関して不安がある場合は、弁護士や司法書士など専門家のアドバイスを受けたり、作成代行を依頼したりするとよいでしょう。
売買
家族間でも株式を売買するケースがあります。売買のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | ・資金力のない後継者候補の介入を防ぎやすくなる ・相続や贈与よりも経営者の意思を反映させやすくなる ・相続時に遺留分侵害額請求から株式を除外できる |
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デメリット | ・後継者には株式価格に相当する資金力が求められる ・売買による利益には譲渡所得税が課税される ・時価よりも安価での売買は贈与税の対象となる可能性がある |
売買する金額が時価と乖離がある場合は、贈与税が課せられる可能性がある点には、とくに注意が必要です。
株式を家族に譲渡する際の手続き
続いて、株式を家族に譲渡する際の手続きを譲渡方法別に解説します。
贈与の場合
家族間で株式を生前贈与する際の手順は、以下のとおりです。
- 株式価格の評価
⇒上場株式の場合、贈与日の最終価格や直近数ヶ月の平均価格など、最も低い価格を選択します。非上場株式は、他の方法で評価額を算出必要があります。 - 贈与契約書の作成
⇒贈与者と受贈者の氏名、贈与に対する意思、贈与日、贈与対象、贈与の方法を記載します。口頭でも成立しますが、トラブルを防ぐためにも文書を作成しましょう。 - 株式の名義変更
⇒上場株式は証券会社を通じて、非上場株式は発行会社に直接手続きを依頼します。 - 契約の実行
⇒定期贈与とみなされないよう、贈与額やタイミングを調整します。 - 確定申告
⇒贈与額が年間110万円を超える場合は、超過分に対して贈与税を申告する必要があります。
とくに、株式の評価額の計算方法や贈与契約書の内容は、後の相続税計算にも影響を与えるため慎重に行いましょう。
相続の場合
家族間で株式を相続する際の手順は、以下のとおりです。
- 遺産分割協議の実施
⇒法定相続人間で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成します。協議書には被相続人の名前や相続日、協議に参加した相続人、相続財産の具体的な分配内容を記載します。 - 名義書換えの手続き
⇒遺産分割協議書に基づき、株券発行会社に相続の連絡をして、名義書換えを申請します。保護預かり口座に入っている株券の場合は、証券会社を通じて名義書換えが行われることもあります。
相続にあたって以下の書類が必要になるので、前もって用意しておきましょう。
- 新株主の印鑑証明書
- 遺言書の写し
- 相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書
- 遺産分割協議書の写し
- 被相続人の戸籍謄本や除籍謄本
遺言書がある場合や相続人が1人の場合、遺産分割協議書を作成した場合など、ケースに応じて必要な書類が異なります。
相続による株式譲渡は、相続人間での合意がスムーズに行えるかが重要なポイントです。遺言書がある場合でも、法定相続人の遺留分侵害額請求などにより、計画が変更される可能性があります。
そのため、事前に相続人間でのコミュニケーションを密に取り、トラブルを未然に防ぐことが重要です。
売買の場合
家族間で株式を売買する際の手続きは、一般的な株式譲渡と同様であるものの、会社の承認が必要になる点が特徴です。具体的な手順は、以下のとおりです。
- 株式譲渡承認の請求
⇒譲渡先と譲渡する株式の数や種類を記載した「株式譲渡承諾請求書」を会社に提出します。 - 株式譲渡の承認決議
⇒株式譲渡承諾請求書の提出後に、会社の取締役会や株主総会で株式譲渡の承認決議が行われます。 - 株式譲渡の承認通知
⇒株式譲渡の承認決議後、会社から2週間以内に承認・不承認が通知されます。通知がない場合は承認とみなされます。 - 株式譲渡契約の締結
⇒株式譲渡の承認が下りたら、株式譲渡契約を締結します。契約には株式の数や金額、表明保証事項などを記載し、売主と買主で署名と捺印をします。 - 株主名簿の書き換え
⇒株主名簿の書き換え請求が通った段階で、正式に株式の所有者が変更されます。 - 株主変更手続きの完了
⇒株主名簿記載事項証明書の交付を請求し、株主変更が正式に完了したことを確認します。
売買による株式譲渡は、相続や贈与と比べて手続きが煩雑になる可能性があります。しかし、会社の経営権に関わる重要な決定であるため、正確な手続きが求められます。
家族間の株式譲渡にかかる税金
家族間の株式譲渡にかかる税金について、譲渡手段によって計算方法が異なります。ここからは、譲渡手段ごとにおける税金の計算について見ていきましょう。
贈与の場合
家族間で株式を贈与する際は、贈与税が課税されます。贈与税の課税方法は、2種類あります。
一つ目は、暦年贈与です。
暦年贈与には、1年あたり110万円までの基礎控除があり、贈与財産から基礎控除額を差し引いた後の金額に対して税率が適用されます。適用される税率は、贈与者と受贈者の関係性によって変動します。
贈与税の速算表は、以下のとおりです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
出典:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
出典:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
もう一つは、相続時精算課税制度です。相続時精算課税制度では、累計2,500万円までの贈与が非課税となり、限度額を超える部分に一律20%の贈与税が課されます。
相続の場合
相続時に課せられる税金が相続税です。
相続税を算出する際は、課税対象額から基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)がされ、残った金額に税率が掛けられて税額が決まります。つまり、法定相続人が多いほど基礎控除額が大きくなるため、税額を抑えられます。
相続税の早見表は、以下のとおりです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
家族間の株式譲渡に使える節税方法
家族間の株式譲渡に使える節税方法を2つ紹介します。
事業承継税制
事業承継税制は、中小企業のスムーズな事業承継を支援するため、相続や贈与による税負担を軽減する制度です。事業承継税制を利用することで、相続や贈与による株式譲渡時の税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
事業承継税制を利用するには、経営者と後継者それぞれに定められている条件を満たしていなければなりません。
経営者側の条件 | ・会社の代表権を有していたこと ・贈与または相続直前に筆頭株主であったこと ・贈与後、代表取締役ではないこと |
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後継者側の条件 | ・贈与時に代表取締役であること ・贈与または相続を受けることで筆頭株主になること ・贈与以前3年間、継続して役員を務めていること |
事業承継税制適用の流れは、以下のとおりです。
- 特例承継計画の策定
⇒中小企業が経営の承継を円滑に行うための計画を策定し、認定経営革新等支援機関の所見を添えて都道府県知事に提出します。 - 特例承継計画の認定
⇒提出した特例承継計画が認定されると、贈与税の納税猶予や免除が適用されます。ただし、承継後5年間は一定の条件を満たす必要があります。 - 条件の維持
⇒承継後5年間、会社の代表者であること、株式を保有し続けること、平均8割の雇用を維持することなどの条件をクリアする必要があります。
事業承継税制を受ける場合は、贈与を受けた年の翌年1月15日までに申請しましょう。
生前贈与
生前贈与は、相続税の軽減に効果的な節税対策です。年間110万円までであれば非課税で贈与できるため、経営者が生前に資産を家族に移すことで、相続時の税負担を減らせます。
相続税精算課税制度も節税の役立ちますが、生前贈与は毎年少額でも課税対象資産を減らせるため、長期的に見るとより大きな節税効果が期待できます。