非上場株式を個人から法人に譲渡する場合の税務上の時価について

非上場株式は市場での取引がされていないため、上場株式のように明確な時価があるわけではありません。そのため、さまざまな方法によっておおよその時価を把握して、譲渡価格を決める必要があります。
本記事では、非上場株式を個人から法人に譲渡する場合の税務上の時価や税金、みなし配当や確定申告について解説します。また、個人から個人へ非上場株式を譲渡する際の税金についても併せて解説するため、譲渡先がまだ決まっていない方もぜひ参考にしてください。
非上場株式を個人から法人に譲渡する際の税務上の時価の考え方
非上場株式を個人から法人に譲渡する際は、株式の時価を可能な限り正確に把握しなければなりません。そのため、国税庁は非上場株式の時価を求める際の基準を、以下のように定めています。
- 時価の半分以下で株式を譲渡した場合は、売主に「みなし譲渡課税」が適用され、所得税が課される
- 買主については、時価と実際の取引価額との差額が受贈益とみなされ、課税対象となる
以下の解説は、上記の内容を前提に進めます。
非上場株式を適正価格で個人から法人に譲渡した場合の税金
非上場株式を適正価格で個人から法人に譲渡した場合は、純粋に実際の取引価額との差額に対して課税されます。具体的には、譲渡価格から購入時の費用や、その他の必要経費を差し引いた金額が課税対象となります。
非上場株式を時価の2分の1未満の価格で個人から法人に譲渡した場合の税金
非上場株式を時価の2分の1未満の価格で個人から法人へ譲渡するケースは、税金の扱いが複雑であるため、売り手側と買い手側に分けてそれぞれ解説します。
売り手側の税金
非上場株式を時価の2分の1未満で個人から法人に譲渡した場合、売り手側にはみなし譲渡所得課税が適用されます。みなし譲渡所得課税の算出に必要な株式の時価の求め方は、以下のとおりです。
- 売買実例がある場合
⇒最近の適正な取引価格を時価とみなす - 公開途上の株式の場合
⇒公募等の価格を参考にする - 類似する他の法人の株式価格がある場合
⇒概要価格に比準して推定する - 上記いずれにも該当しない場合
⇒1株当たりの純資産価額等を基に時価を計算する
上記の評価は、財産評価基本通達の「取引相場のない株式等の評価」の規定に従って行われます。
また株式を評価する際は、譲渡する個人が「同族株主」に該当するかどうか判断する必要があります。同族株主に該当するかによって、非上場株式の評価方法が変わるためです。
なお、株式を譲渡する個人が「同族株主」に該当するかどうかは、譲渡直前の保有株式数で判断されます。
このように、非上場株式を時価の2分の1未満で譲渡する場合、売り手側は株式の時価を基にした所得税を納めることになります。株式の種類や譲渡する個人の状況によって異なる評価方法が用いられるため、下記の記事で確認しておきましょう。

買い手側の税金
非上場株式を個人から法人に時価の半分以下で譲渡した際には、法人側にも税金がかかります。なぜなら、実際に支払った金額と株式の時価との差額が受贈益として見なされるためです。
買い手側が負担する税金を算出する際も株式の時価を求める必要はあるものの、評価方法は売り手側の場合と同様です。なお、実際には会社の実際の価値を反映した株価を求める「純資産価額方式」が用いられる傾向にあります。
非上場株式を時価よりも高額で個人から法人に譲渡した場合の税金
非上場株式を個人から法人に時価よりも高額で譲渡した場合も、税金の取扱いはやや複雑です。
まず売主である個人の税金は、以下の2種類に分けられます。
- 時価に該当する部分
⇒売却益が譲渡所得とみなされ、所得税が課せられる - 時価を超える部分
⇒買い主側からの贈与とみなされ、贈与税が課せられる
一方で買い主の法人は「株式を時価で購入した」とみなされ、時価を超える部分は売主への寄附金として損金に算入できます。しかし、一定額を超えた寄付金は損金に算入できません。
このように非上場株式を時価以上で譲渡すると、売り主の個人には所得税が、買い主の法人には寄附金としての税務上の取扱いが適用されます。また非上場株式の売り主の個人が、買い主の法人の従業員や役員である場合、税務上の扱いはさらに複雑になります。
非上場株式を個人間で譲渡した場合の税金
続いて、買い主が法人ではなく個人であるケースの税金の取扱いについて見ていきましょう。
売り手側の税金
非上場株式を個人間で譲渡した場合の売り手側の税金は、株式の時価によって以下のように場合分けされて取り扱われます。
適正価格で売却した場合 | 実際の売却金額を基に、売却益に対して20.315%の譲渡所得税が課税される。 |
時価より安く売却した場合 | 時価ではなく実際の売却金額を基に、売却益に対して20.315%の譲渡所得税が課税される。 |
時価より高く売却した場合 | 適正価格で得た利益に対しては譲渡所得税が適用され、それを超える利益分には贈与税が課税される。 |
なお、本来は他の非上場会社の株式で譲渡所得や損失がある場合、それらの損益を通算して譲渡所得を減らすことが可能です。しかし、個人間で譲渡損失が出た場合は、損益通算ができません。
買い手側の税金
非上場株式を個人間で譲渡した場合の買い手側の税金も、株式の時価によって取扱いが異なります。
適正価格で購入した場合 | 利益が発生しないため課税されない。 |
時価より安く購入した場合 | 実際の購入金額ではなく時価を基にみなし贈与税が課税される。 |
時価より高く購入した場合 | 利益が発生しないため課税されない。 |
例えば、時価50万円の株式を30万円で購入した場合、実質的な利益である20万円が課税対象となります。一方で時価50万円の株式を70万円で購入した場合、20万円は売り手側への寄附金となるものの、個人間の取引であるため損金には算入できません。
非上場株式の譲渡時に注意すべきみなし配当
続いて、非上場株式の譲渡に関わるみなし配当について見ていきましょう。
概要と発生条件
みなし配当とは、実際には剰余金の配当や分配には該当しないものの、法人税法上は配当金として処理される金額のことです。みなし配当が発生する主な条件は、以下のとおりです。
- 発行会社が自己株式を取得する場合
⇒例えば自社株買いを行い、株主から株式を取得する際に、その株主にみなし配当が適用される - 金銭を対価とした合併や会社分割時
⇒合併や会社分割で金銭を受け取った株主にも、みなし配当が発生することがある(適格合併や会社分割の場合、みなし配当は発生しない) - 解散等に伴う残余財産の分配時
⇒会社が解散する際に、債務返済後に残った財産を株主に分配するとき、この分配金がみなし配当とされるケースがある
上記の条件下で株主が受け取る金銭や財産は、通常の配当とは異なり、みなし配当として特別な税務上の取扱いを受けることになります。
税務上の扱い
個人株主が非上場株式のみなし配当を受け取るケースでは、配当所得として税金が課されます。
この際の注意点は、非上場株式の配当所得は総合課税となる点です。つまり、分離課税のように一律20.315%ではなく、累進課税によって15~55%の範囲で所得税と住民税が課税されます。
なお、所得税の速算表は以下のとおりです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
上記に加えて、住民税10%が課税されます。
非上場株式を譲渡した時の確定申告
非上場株式を譲渡したときの確定申告に必要な添付書類と、それらの書き方について見ていきましょう。
必要な添付書類
非上場株式を譲渡した場合の確定申告に必要な添付書類は、以下のとおりです。
- 確定申告書B第一表、第二表
- 確定申告書第三表(分離課税用)
- 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
- マイナンバーカード(コピー)
- 本人確認書類(運転免許証、パスポートなどのコピー)
確定申告の手続きに不備が発生しないように、添付書類はすべて用意しましょう。
書類の書き方
非上場株式を譲渡した際の確定申告の書類は、以下のポイントに注意して記入してください。
株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書 | ・「一般株式等」の欄に、譲渡した株式の情報を記入する ・譲渡先の所在地や名称、金融商品取引業者名(該当する場合)を明記する ・売却時と購入時の受渡日(または約定日)、償還日を記載する ・同一銘柄を複数回取得している場合は、最新の取得年月日を括弧内に記入する |
---|---|
確定申告書B第一表の「収入金額等」と「所得金額」 | ・住所、マイナンバー、氏名などの基本情報を記入する ・すべての所得に関する情報を記入する |
確定申告書B第二表 | ・所得から差し引かれる金額(社会保険料控除や生命保険料控除など)を記入する |
確定申告書第三表(分離課税用)の「収入金額等」と「所得金額」 | ・「一般株式等」や「上場株式等」ごとに、譲渡所得等の金額を計算明細書から情報を転記する。 |
最後に、所得税と復興特別所得税の申告納税額を計算し、記入します。
確定申告の手続きは複雑であるため、自力での対応が難しい場合は、税理士などの専門家の力を借りましょう。
非上場株式を個人から法人に譲渡する際のFAQ
最後に、非上場株式を個人から法人に譲渡する際によくある質問に回答します。
Q.非上場株式を個人から法人に譲渡する際の手続きは?
非上場株式を個人から法人へ譲渡する際は、以下の流れで手続きを進めます。
- 少数株主の株式集約
⇒買い手はできるだけ多くの株式を手に入れたいと考えているため、少数株主がいる場合は事前に株式をまとめておくとよい。 - 譲渡制限の確認
⇒企業の定款をチェックして、株式の譲渡制限が設けられているか確認する。譲渡制限がある場合、その詳細は全部事項証明書に記載されている。 - 株式譲渡承認の請求
⇒譲渡制限がある場合は、売り手と買い手で協力して株式譲渡承認請求書を作成し、売り手企業に提出する - 株式譲渡の承認決議
⇒請求書を受け取った売り手企業は、株主総会や取締役会で譲渡の承認決議を行う。承認が下りた場合は、売りて企業と契約書を交わして対価の支払いを受ける。 - 名簿の名義書換
⇒株式譲渡が完了した後に、株主名簿の名義を買手のものに書き換えることで、新しい株主として正式に認められる。
とくに、譲渡制限の有無の確認や承認請求は大切なポイントであるため、忘れずにチェックしましょう。
Q.非上場株式を個人から法人へ譲渡した際に行う確定申告の注意点は?
確定申告に必要な添付書類を漏れなく用意して、記入もミスなく行いましょう。
また、確定申告は譲渡があった翌年の2月16日から3月15日の間に行う必要があります。遅れるとペナルティが科せられることがあるため、スケジュールに余裕を持って確定申告を済ませましょう。
Q.非上場株式の譲渡価格の決め方は?
非上場株式の譲渡価格は、主に以下4種類の方法で決めます。
方法 | 概要 | メリット・デメリット |
---|---|---|
時価純資産価額法 | すべての資産と負債を時価で再評価し、純資産額を算出する。 | メリット ・計算が比較的簡単かつ客観的。 デメリット ・ 将来の収益性や無形資産の価値を反映できない |
修正簿価純資産法 | 含み損益が大きい項目のみを時価で修正して純資産額を算出する。 | メリット ・計算が比較的シンプル デメリット ・すべての資産を時価で評価しないため、企業の価値が正しく反映されにくい |
類似業種比準法 | 同業他社との比較により企業価値を算出する。 | メリット ・客観性が高い デメリット ・自社独自の強みや市場環境の変化を十分に反映できないことがある |
DCF法 | 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出する。 | メリット ・最も将来性を考慮しやすい デメリット ・将来予測の不確実性に不安がある |
非上場株式の譲渡価格を決める際には、上記の方法を理解し、企業の状況により適した方法を選びましょう。