非上場株式の相続手順・株式の評価方法・払えない時の対処法について

「相続遺産のなかに非上場株式が含まれていたが、どのような手続きを踏めばよいかわからない」
「非上場株式の相続税がいくらかわからないし、払えるかどうか不安」
本記事では、上記のような悩みを解決できるように、非上場株式の相続手順や株式の評価方法、相続税を払えない時の対処法を解説します。お困りの方は、ぜひ参考にしてください。
非上場株式の相続手順
非上場株式の相続は、以下4SETPで行います。
1.非上場株式の発行会社に相続を申し出る
非上場株式の相続時は、発行会社に相続を申し出る必要があります。
なぜなら、非上場会社の株式には一般的に「譲渡制限」が設けられているためです。譲渡制限とは、株主が発行会社の承認なしに株式を第三者に譲渡できないという規定で、会社にとって不都合な人物が株主になることを防ぐ目的があります。
相続の場合は「一般承継」とみなされ、譲渡制限の対象外となるケースがありますが、念のため非上場株式の発行会社に連絡しましょう。
2.非上場株式を含む課税遺産総額を算出する
非上場株式を含む課税遺産総額を算出する際は、まず発行会社の区分を確認しましょう。会社の区分は、総資産額や従業員数、1年間の売上高に基づいて、以下の5つに分けられます。
- 大会社
- 中会社の大
- 中会社の中
- 中会社の小
- 小会社
会社の区分を判断する際は、最初に総資産と従業員数を比較し、小さいほうを選びましょう。次に、選択した項目と取引金額を比較し、大きいほうを会社の区分とします。
なお、従業員数が70名以上の場合は、その時点で大会社に分類されます。
会社の区分を確認できたら、非上場株式の相続税評価額を算出しましょう。ただし、非上場株式の相続税評価額の計算は複雑であるため、税理士や会計士などの専門家に依頼することが一般的です。
非上場株式の相続税評価額が判明したら、他の相続遺産との課税遺産総額を算出します。
3.相続人全員で遺産分割協議を行う
課税遺産総額が決まったら、相続人全員で遺産分割協議を実施します。遺産分割協議の注意点は、以下のとおりです。
- 全員が協議に参加できない相続人の意向は書面に残す
- 協議の結果は遺産分割協議書に記載し、参加した全員のサインと実印を押す
- 協議が難航した場合は調停に至る可能性がある
トラブルのリスクを抑えたい場合は、税理士や弁護士などの専門家のアドバイスを仰ぐとよいでしょう。
4.株主名簿を相続人名義に書き換える
非上場株式を相続した後に、相続人がその権利を行使するためには、株主名簿の氏名を相続人名義に書き換える必要があります。名義書き換えの際に必要な書類は、以下のとおりです。
- 株式名義書換請求書兼株主票
- 株券
- 遺言書(ある場合)
- 印鑑証明書
- 戸籍謄本
- 共同相続人同意書または遺産分割協議書(遺言書がない場合)
上記の書類を揃えたら、発行会社に提出しましょう。株主名簿の名義変更が完了した段階で、相続人は正式に非上場株式の所有者として認められます。
5.相続税を発生から10ヶ月以内に申告・納付する
相続が発生したら、相続税の申告と納付を10ヶ月以内に完了させましょう。期限を過ぎると延滞料がかかります。
非上場株式の相続税評価方法は3つ
非上場株式の相続税評価方法は、以下の3つです。
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
- 配当還元方式
相続税評価額を正しく算出できるように、上記3種の方法を理解しておきましょう。
1. 類似業種比準方式:大会社の場合
類似業種比準方式とは、事業内容が似ている上場会社の株価を基に、非上場会社の株価を算出する方法です。主に、大会社の場合に用います。
類似業種比準方式で相続税評価額を算出する際は、「比準要素」と呼ばれる以下3つの要素を根拠とします。
- 配当
- 利益
- 純資産
上記3つの比準要素を基準に、評価対象会社と類似業種の数値を比較します。
しかし、非上場株は流通性が低いため、一定の減額調整が必要です。この減額割合を「斟酌率」といい、会社規模によって以下のようの変動します。
大会社 | 0.7 |
---|---|
中会社 | 0.6 |
小会社 | 0.5 |
また、比準要素の中に「0」またはマイナスの項目がある場合、計算方法が変わります。例えば、0が1項目の場合は類似業種比準方式で計算しますが、2項目の場合は純資産価額方式を用いるのが原則です。
2. 純資産価額方式:中会社・小会社の場合
純資産価額方式とは、会社の実際の価値を反映した株価を求める手法で、主に中会社や小会社の場合に用います。具体的には、会社の資産と負債を現在の市場価値で評価し直し、その純資産額をもとに株価を算出します。
純資産価額方式での計算手順は、以下のとおりです。
- 1. 会社の資産と負債を時価で評価し、「時価純資産額」を求める
- 2. 時価純資産額から「簿価純資産額」を引き、差額に法人税率を掛けて税引き後の利益を算出する
- 3. 税引き後の利益を発行済み株式数で割り、1株あたりの価値を算出する
なお、中会社の相続税評価額を算出する際は、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用するケースがあります。
3. 配当還元方式:特例に当てはまる場合
配当還元方式とは、実際の配当金額や資本金等を基に株価を算出する方法です。相続人が同族株主以外の少数株主である場合に、特例として適用されます。
配当還元方式での計算に用いるのは、「1株当たりの年配当金額」と「1株当たりの資本金等の額」です。年配当金額は、相続開始日前の2期間の配当の平均値を用い、資本金等の額は資本金と資本剰余金の合計から算出します。
ただし、非上場会社では配当を出していない場合が多いため、計算上の年配当金額を最低2円50銭と定めています。そうすることで、評価額が0になることを防ぎ、相続税の公平な評価を実現しているのです。
非上場株式を相続する際の注意点2つ
非上場株式を相続する際は、以下の2点に注意しましょう。
- 自力で評価額の算出するのは難しい
- 上場株式よりも売却が難しい
ひとつずつ解説します。
1. 評価額の算出は専門家でないと難しい
非上場株式の評価額は、専門家でなければ算出は難しいでしょう。非上場株式には市場価格がなく、複雑な計算方法を用いないと正しく株価を把握できないためです。
また、非上場株式の評価が正しくできないと、不必要に高額な税金を払うことになりかねません。そのため、報酬を負担してでも税理士や弁護士などの専門家に依頼したほうが、支出を抑えられる可能性があります。
2. 上場株式よりも売却が難しい
非上場株式は証券取引所で取引されず、買い手が見つかりにくいことから、上場株式よりも売れにくいと考えられます。
また、非上場株式には想定以上に評価額が高額になり、相続税も高くなることもリスクの一つです。非上場株式を扱う際は、このようなリスクを踏まえなければなりません。
非上場株式の相続税が払えない時の対処法4選
非上場株式の相続税の支払いが困難な場合は、以下4つの対処法を検討しましょう。
- 遺産相続を放棄する
- 納税猶予制度を活用する
- 株式買取請求権を行使して株式を売却する
- 事業承継税制を利用する
ひとつずつ解説します。
1. 遺産相続を放棄する
遺産相続を放棄することで、相続税の支払い義務を負う必要がなくなります。また、被相続人が残した借金などの負債から解放される点もメリットです。
しかし遺産相続を放棄した場合、相続したい資産があっても手に入れられなくなります。それでも遺産相続を放棄したい場合は、相続が始まったと知った日から3ヵ月以内に、家庭裁判所で手続きしましょう。
2. 納税猶予制度を活用する
納税猶予制度とは、相続税の一部を猶予または免除してもらえる制度のことです。具体的には、後継者に課せられる相続税のなかで、自社株にかかる税額の80%が納税猶予の対象となります。
納税猶予を受けるための主な要件は、以下のとおりです。
会社の要件 | ・中小企業であること ・非上場であること ・従業員が1人以上いること ・資産管理会社でないこと |
---|---|
先代経営者の要件 | ・会社の代表者であったこと ・相続開始直前に総議決権の過半数を保有していたこと |
後継者の要件 | ・相続開始から5ヵ月以内の時点で代表者であること ・相続開始の直前に役員であること ・相続株式または贈与株式を継続保有していること |
また、特例を継続して適用するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 5年間の事業継続
- 5年平均で雇用の8割以上を維持
- 会社要件を満たし続けること
納税猶予制度の要件を満たせる場合は、ぜひ検討してみましょう。
3. 株式買取請求権を行使して株式を売却する
非上場株式の相続税が払えないときは株式買取請求権を行使して、株式を売却することも選択肢の一つです。株式の売却方法は、以下の3種類に分けられます。
売却方法 | 特徴 |
---|---|
発行会社へ買取を申し出る | ・比較的容易である ・発行会社には買取義務がないため、断られるか非常に低い価格を提示されることが多い |
自ら買い手を探す | ・買手を見つけるのは困難である ・譲渡には発行会社の承認が必要となる |
専門家に売却手続きの代行を依頼する | ・適切な価格での売却やスムーズな売却手続きを望める ・第三者の買い手を紹介してくれることもある ・代行費用がかかる |
なお、株式買取請求権が不承認となった場合でも、発行会社や指定された取引人に対して買取請求が可能です。また、株式買取請求に対して一定期間内に買い手が決定しなければ、譲渡が承認されたとみなされます。
4. 事業承継税制を利用する
事業承継税制とは、中小企業の経営承継をスムーズに行うために設けられたものです。特定の要件を満たす場合、相続または遺贈によって取得した非上場会社の株式に関する相続税の納税が猶予され、さらには免除される可能性もあります。
事業承継税制の適用要件は、以下のとおりです。
- 中小企業であること
- 上場していないこと
- 従業員が1人以上いること
- 資産管理会社でないこと
- 先代経営者は会社の代表者であり、総議決権の過半数を保有していたこと
- 後継者は代表者であり、相続または贈与の直前に役員であったこと
さらに、事業承継税制を継続して適用するためには、5年間の事業継続や雇用の維持などの条件を満たし続ける必要があります。
非上場株式の相続に関するFAQ
最後に、非上場株式の相続税に関してよくある質問に回答します。
Q.非上場株式の相続税がかからないのはいくらまで?
非上場株式の相続税は、課税遺産総額が基礎控除の範囲内に収まる場合はかかりません。相続税の基礎控除額は、以下の式で算出します。
- 3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば法定相続人が3人の場合は、「3,000万円+600万円×3」で、課税遺産総額が4,800万円が以内であれば相続税はかからないということになります。
Q.非上場株式の相続を放棄したいけどどうすればいい?
非上場株式の相続を放棄したい場合は、相続開始を知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きを取りましょう。
Q.相続放棄した非上場株式はどうなる?
相続放棄をした非上場株式は相続人がいなくなるため、以下の手続きに従って処理されます。
- 家庭裁判所に相続財産管理人の選任が申し立てられる
- 相続財産管理人によって被相続人の債権者への弁済を行われる
- 弁済後、株式の所有権が相続債権者や特別縁故者に移転する(両者ともいない場合は国庫に帰属する)