非上場株式の株価算定方法

非上場株式の株価算定方法一覧
評価方法の分類名 | 内容 | 着眼点 | 長所 | 短所 |
ネットアセット・アプローチ | 会社の純資産を基準に評価する方法 貸借対照表上の純資産に着目した静態的な価値を示す |
過去の原価 | 予測や割引率等を使わずに、客観的資料である貸借対照表に基づき算定できるので、客観性に優れており、誰にも理解しやすい | 収益力や成長力が反映されない ・成長企業では将来的収益獲得能力を反映できず過小評価となるおそれあり ・衰退企業では逆に過大評価となるおそれ ・貸借対照表に計上されない無形資産・知的財産権を源泉とする超過収益力を持つ企業の場合には、このような価値を反映できない |
簿価純資産法 | 会計上の純資産額に基づいて一株当たり純資産の額を計算する方法 会計上の帳簿価額を基礎とした計算である |
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時価純資産法(修正簿価純資産法) | 貸借対照表の資産負債を時価で評価し直して純資産額を算出し、一株当たりの時価純資産額をもって株主価値とする方法 全ての資産負債を時価評価するのは実務的に困難なことから、土地や有価証券等の主要資産の含み損益のみを時価評価することが多いため、修正簿価純資産法と呼ぶこともある |
インカム・アプローチ | 評価対象会社が将来獲得することが期待される利益やキャッシュフローに基づいて価値を評価する方法 | 将来の収益 | 将来の収益獲得能力や固有の性質を評価結果に反映させる点で優れている | 継続企業を前提とするので、継続性に疑義がある場合は不適切 |
① DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法 | 企業が生み出すキャッシュフローに注目して企業価値を算出する方法 フリーキャッシュフローを現在価値に割り引くことで企業価値を算出 多くの中小企業では精緻な事業計画をたてることが難しく、事業計画の数値や割引率の算定根拠など、その算出過程で恣意性が入りやすいため客観性が問題となることもある |
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② 収益還元法 | 会計上の純利益を一定の割引率で割り引くことによって株主価値を計算する方法 割引率をどのような水準にするのかが問題となる |
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③ 配当還元法 | 株主への直接的な現金支払いである配当金に基づいて株主価値を評価する方法 多額の欠損が生じているために当面において配当できない企業、配当が見込めない成長企業については株主価値の計算が困難 配当が低位安定しているような企業は過小評価しやすい |
マーケット・アプローチ | 類似する会社や取引事例などとの比較により相対的に評価した価値を示す方法 | 現在の市場 | ・市場での取引環境を反映させること ができ、客観性を担保できる ・対象会社が上場企業に匹敵する規模 だったり、実際の売買事例が客観性 を持つ場合には有力 |
・継続企業を前提とするので、継続 性に疑義がある場合には不適切 ・全くの新規事業や独自のビジネス モデルの場合、類似上場会社がない等の問題あり ・対象会社が上場企業に匹敵する規 模ではなく、売買事例が客観性を 有さない場合には説得力に欠ける |
① 類似業種比準法 | 上場会社の市場株価と比較して非上場会社の株式を評価する方法 類似上場会社法、倍率法、乗数法ともいわれる 客観性に優れているが、類似上場会社がない場合は利用不可、対象会社が類似会社と異なる成長過程にある場合には適切な評価結果が得られない 国税庁の『財産評価基本通達』に依拠するものであり利用すべきでない、という意見もある |
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② 取引事例法 | 評価対象会社の株式について過去に売買がある場合に、その取引価額を基に株式の評価をする方法 ①取引量が同程度であること、②取引事例の時点が比較的直近であり、その間に経営、業績等に大きな変化がないこと、③取引が独立した第三者間で行われ取引件数もある程度件数があることが必要とし、取引件数1件で取引株式数も少ない場合は不可とした判例あり 市場性のない株式の取引先例が客観的価値を適正に反映しているか疑問、という意見もあり |
※日本公認会計士協会公表の実務指針である「企業価値評価ガイドライン」を基に、非上場株式の売買価格評価に関係するものに絞って抜粋し、判例を加えて少数株ドットコム作成
ネットアセットアプローチ
ネットアセットアプローチは、企業の資産価値に基づいて非上場株式の株式価格を算定する方法です。具体的には、企業の総資産から総負債を差し引いた純資産(株主資本)を株式数で割ることで、1 株あたりの価値を求めます。このアプローチでは、企業の資産の実態に注目して株価を評価するため、将来の利益や成長性などは直接的には反映されません。
薄価純資産価額方式と時価純資産価額方式(修正簿価純資産方式)は、ネットアセットアプローチの中で用いられる2 つの評価方法です。
薄価純資産価額方式
特徴
この方法では、企業の貸借対照表(バランスシート)に記載されている資産や負債の会計上の価値(簿価)に基づいて純資産価額を計算します。具体的には、総資産から総負債を差し引いた金額を株式数で割ります。薄価純資産価額は、会計上の価値をそのまま用いるため、資産の時価との乖離が生じることがあります。
メリット:予測や割引率等を使わずに、客観的資料である貸借対照表に基づき算定できるの
で、客観性に優れており、誰にも理解しやすい
デメリット:収益力や成長力が反映されない
・成長企業では将来的収益獲得能力を反映できず過小評価となるおそれあり
・衰退企業では逆に過大評価となるおそれ
・貸借対照表に計上されないのれん代(無形資産・知的財産権)を源泉とする超過収益力を持つ企業の場合には、このような価値を反映できない
時価純資産価額方式(修正簿価純資産方式)
特徴
この方法では、企業の資産や負債の時価(現在の市場価格)に基づいて純資産価額を計算します。具体的には、総資産の時価から総負債の時価を差し引いた金額を株式数で割ります。純資産価額方式は、資産の現在価値を反映するため、薄価純資産価額方式よりも評価額が現実的であることが多いです。
メリット:予測や割引率等を使わずに、客観的資料である貸借対照表に基づき算定できるの
で、客観性に優れており、誰にも理解しやすい
デメリット:収益力や成長力が反映されない
・成長企業では将来的収益獲得能力を反映できず過小評価となるおそれあり
・衰退企業では逆に過大評価となるおそれ
・貸借対照表に計上されないのれん代(無形資産・知的財産権)を源泉とする超過収益力を持つ企業の場合には、このような価値を反映できない
非上場株式の評価においては、ネットアセットアプローチだけではなく、ディスカウントキャッシュフロー法や収益還元法・配当還元法などのインカムアプローチアプローチや株価売上高倍率、株価利益倍率など、他の評価方法も組み合わせて使われることが一般的です。これにより、より正確で現実的な株価の評価が可能になります。非上場株式の価格算定においては、企業の業績、成長性、リスク、業界状況などを総合的に考慮し、複数の評価手法を適切に組み合わせることが重要です。
ネットアセットアプローチは、資産重視の企業や不動産会社、金融機関などでより適切な評価が得られることがあります。一方で、成長性や将来のキャッシュフローが重要な要素となる企業の場合、インカムアプローチのディスカウントキャッシュフロー(DCF 法)が適切な評価方法となることが多いです。
非上場株式の価格算定は、専門家による評価が必要であり、企業の特性や市場状況に応じて柔軟に評価手法を選択することが求められます。また、非上場株式の取引は、情報の非対称性や流動性の低さから、上場株式とは異なるリスクや課題が存在します。そのため、非上場株式の評価や取引には注意が必要です。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、企業の将来の収益性に基づいてその価値を評価する方法です。将来のキャッシュフローや利益を現在価値に換算することで、企業の現在の価値を導き出します。インカムアプローチには、主にディスカウントキャッシュフロー法(DCF 法)、収益還元方式、配当還元方式があります。
DCF 法
特徴
DCF法は、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて合算することで、企業価値を評価する方法です。将来のキャッシュフローを予測し、それを適切な割引率で現在価値に換算します。DCF 法は、成長性やリスクを直接的に反映するため、成長企業やリスクの高い企業の評価に適しています。
メリット:将来の収益獲得能力や固有の性質を評価結果に反映させる点で優れている
デメリット:多くの中小企業では精緻な事業計画をたてることが難しく、事業計画の数値や割引率の算定根拠など、その算出過程で恣意性が入りやすいため客観性が問題となることもある
継続企業を前提とするので、継続性に疑義がある場合は不適切
収益還元方式
特徴
収益還元方式は、企業が将来得ることが見込まれる収益を現在価値に換算することで、企業価値を評価する方法です。通常、将来の収益を一定期間にわたって予測し、それを適切な割引率で現在価値に換算します。収益還元方式は、事業の収益性が安定している企業や、業績が収益に直結する企業の評価に適しています。
メリット:将来の収益獲得能力や固有の性質を評価結果に反映させる点で優れている
デメリット:割引率をどのような水準にするのかが問題となる
継続企業を前提とするので、継続性に疑義がある場合は不適切
配当還元方式
特徴
配当還元方式は、株主への直接的な現金支払いである配当金に基づいて株主価値を評価する方法です。
メリット:将来の収益獲得能力や固有の性質を評価結果に反映させる点で優れている
デメリット:多額の欠損が生じているために当面において配当できない企業、配当が見込めない成長企業については株主価値の計算が困難
配当が低位安定しているような企業は過小評価しやすい
これらのインカムアプローチは、非上場企業の価値評価だけでなく、上場企業の株価評価やM&A の際の企業価値評価にも広く用いられます。企業の特性や市場状況に応じて、複数の評価手法を組み合わせることで、より正確で現実的な企業価値評価が可能になります。企業の特性や業界、市場状況に応じて、インカムアプローチを適切に選択・適用することが求められます。
例えば、成長性が高く将来のキャッシュフローが大きく増加すると予測される企業では、DCF 法が適切な評価方法となることが多いです。一方で、安定した利益を上げ続けている企業や、事業の収益が安定している企業では、収益還元方式や配当還元方式が適切な評価方法となることがあります。
また、インカムアプローチ以外の評価方法も併用することが一般的です。例えば、ネットアセットアプローチやマーケットアプローチ(類似する会社や取引事例などとの比較により相対的に評価した価値を示す方法)と組み合わせることで、企業価値の評価をより正確に行うことができます。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは類似する会社や取引事例などとの比較により相対的に評価した価値を示す方法です。
類似業種比準方式
特徴
類似業種比準方式は、同業種や類似業種の上場企業の株価や財務データをもとに、対象企業の企業価値や株価を推定する方法です。
この方法は、市場の評価基準を反映しやすいため、業界の動向や市場状況に敏感な企業の評価に適しています。客観性に優れていますが、類似上場会社がない場合は利用不可、対象会社が類似会社と異なる成長過程にある場合には適切な評価結果が得られないという問題点があります。また、国税庁の『財産評価基本通達』に依拠するものであり利用すべきでない、という意見もあります。
メリット:
・市場での取引環境を反映させることができ、客観性を担保できる
・対象会社が上場企業に匹敵する規模の場合には有力
デメリット:
・継続企業を前提とするので、継続性に疑義がある場合には不適切
・全くの新規事業や独自のビジネスモデルの場合、類似上場会社がない等の問題あり
・対象会社が上場企業に匹敵する規模ではない場合には説得力に欠ける
取引事例法
特徴
取引事例法は、評価対象会社の株式について過去に売買がある場合に、その取引価額を基に株式の評価する方法です。この方法は、過去の取引事例が参考になるため、M&A や資本提携の際の企業価値評価に適しています。
メリット:
・市場での取引環境を反映させることができ、客観性を担保できる
・実際の売買事例が客観性を持つ場合には有力
デメリット:
・売買事例が客観性を有さない場合には説得力に欠ける
マーケットアプローチを用いる際には、類似企業や類似取引の選定が重要です。適切な比較対象を選ぶことで、より正確な企業価値や株価の評価が可能になります。また、マーケットアプローチだけでなく、インカムアプローチやネットアセットアプローチと併用することで、より包括的な企業価値評価が可能になります。企業の特性や業界、市場状況に応じて、マーケットアプローチを適切に選択・適用することが求められます。
例えば、同業種の企業が多く上場している業界では、類似業種比準方式が適切な評価方法となることが多いです。一方で、過去に類似のM&A 取引が行われた場合や、資本提携の事例がある場合は、取引事例法が適切な評価方法となることがあります。
非上場企業の評価においては、情報の非対称性や流動性の低さ、企業ごとの特性やリスクが異なるため、専門家による適切な評価が重要です。非上場株式の価格算定や取引に関しては、これらの評価手法を理解し、適切な方法で評価・取引を行うことが求められます。
また、企業価値評価の精度を高めるために、複数の評価手法を併用することが一般的です。マーケットアプローチは、市場の評価基準を反映するため、インカムアプローチやネットアセットアプローチと組み合わせることで、より現実的な企業価値評価が可能になります。最終的には、企業の特性や目的に応じて、適切な評価手法を選択し、適用することが重要です。